引張試験で「チャック切れ」「チャック滑り」が起きる原因と対策

引張試験では「チャック切れ」や「チャック滑り」の問題に悩まされることが少なくありません。「なぜ滑るのか」「測定結果は有効なのか」と不安を感じながら、このページに辿り着いた方も多いのではないでしょうか?本記事では、「チャック切れ」「チャック滑り」を定義から整理し、その原因と対策について、Force Channelのノウハウをもとに解説します。

目次

チャック切れが起きる原因と対策

原因と対策の解説に入る前に、「チャック切れ」とは何かを整理しておきます。

今回あらためて調べてみたところ、JIS規格などにおいて、「チャック切れ」が明確に定義されている資料は見つかりませんでした。一方で、これまでイマダに寄せられた測定相談では、多くの場合、引張試験中にサンプルを固定するチャック付近で破断が起きる現象が「チャック切れ」と呼ばれていました。そのため、本記事でも「チャック付近で破断が起きる現象」を「チャック切れ」の定義として解説を進めます。

チャック切れとは、引張試験中にサンプルを固定するチャック付近で破断が起きる現象

引張試験における破断は、「応力が材料強度や接合強度を上回ったところ」で起きるのが原則です。言い換えると、サンプルが均質な短冊形状の場合、「チャック切れ」は、次のいずれかの現象が発生した結果であると考えられます。

  • チャック付近のサンプルの材料強度が、中心部より低下した(材料強度の低下)
  • チャック付近でサンプルの断面積が減少し、応力が増加した結果、材料強度を上回った(応力の増加)
  • チャック付近で負荷の偏りが生じ、局所的に応力が集中した(応力集中)

それでは、なぜ材料強度の低下や、応力の増加、応力集中が発生するのでしょうか?
サンプルが一般的な短冊形状なのであれば、次の二つが原因として最初に疑われます。

  • クランプ力(掴み力)によるサンプルの損傷・変形
  • ミスアライメントによる応力集中

クランプ力(掴み力)によるサンプルの損傷・変形

サンプルをチャック内で確実に固定するためには、しっかりと掴むことが重要です。一方で、過剰なクランプ力が加わると、サンプルを損傷・変形させてしまう可能性があります。その結果、掴み部で材料強度の低下や応力集中が発生し、チャック切れの原因となります。たとえば、次のような現象がチャック切れを引き起こします。

  • チャック歯の食い込みにより、局所的に損傷が発生する(損傷が応力集中の原因となる)
  • サンプルが不均一に潰れ、局所的に断面積の減少が起こる(断面積の減少が応力の増加の原因となる)
  • クランプ力により、サンプルの内部構造が変化する(材料特性の変化が強度低下の原因となる)

「裂けやすいサンプルをギザ歯で掴む」「サンプルに微細なクラック(ひび割れ)が入るほどに強い力で掴む」などは、これらの損傷や応力集中を引き起こし、チャック切れの原因となる代表的な事例です。

▲アルミ箔の引張試験:歯の食い込みにより損傷し、最終的にチャック付近で破断(右画像:試験後のサンプル)

では、クランプ力によるチャック切れはどうすれば防げるのでしょうか?

「クランプ力(掴み力)を弱める」ことは、単純ですが非常に有効な対策です。クランプ力を弱めれば、当然クランプによる損傷や変形は起こりにくくなります。しかし一方で、後述する「チャック滑り」の観点では不利に働く場合があります。「チャック切れ」「チャック滑り」の両方を防げる適切なクランプ力を見つけて、コントロールすることができれば、それは非常に有効な解決策です。

しかし、現実には「チャック切れ」「チャック滑り」の両方を防げるクランプ力が存在するとは限りません。また、たとえ適切なクランプ力を見つけられたとしても、繰り返し同じクランプ力を維持することは、オペレーション上の難しさを生じさせます。そのため、クランプ力の調整だけでなく、別のアプローチでの対策も重要です。

クランプ力の調整以外で有効な対策として、Force Channelでは次の3つのアプローチを紹介します。

  • チャックの歯とサンプルの接触面積を広げる
  • チャックの歯を、波歯やウレタン歯に変更する
  • 狙った位置で破断が起きるようにサンプル形状を加工する

チャックの歯とサンプルの接触面積を広げる

たとえばチャック歯の先端だけでサンプルをクランプしている場合、しっかりと奥まで差し込んでサンプルを掴むことで、チャック切れが改善することがあります。これは、チャック歯とサンプルの接触面積が増えることで、接触部の圧力(単位面積あたりにかかる力)が減少し、サンプルの損傷や変形を抑えることができるためです。

チャックの歯を、ウレタン歯や波歯に変更する

チャックの歯の変更も、比較的簡単でありながら効果的な対策です。

たとえば、ギザ歯同士で薄いサンプルを掴む場合、歯とサンプルの接触面積が小さくなり、クランプ力を限られた接触部に集中してしまう場合があります(下図「両側ギザ歯の場合」)。その結果、局所的に圧力が高まることでサンプルが損傷し、その損傷を起点とした破断(=チャック切れ)のリスクが高まるというわけです。

このような場合には、片側の歯をウレタン歯に変更することで問題の解決が期待できます。片側をウレタン歯に変更すると、ギザ歯がサンプル越しにウレタン歯へと食い込むようになり、サンプルとの接触面積が広がります。その結果、クランプ力を広い面積で分散できるようになるためです(下図「片側ウレタン歯の場合」)。

紙や布、皮革など、柔らかく引裂きに弱い素材では、波歯への変更も効果的です。波歯はギザ歯と比較して接触面が緩やかな形状を持ちます。波歯の形状に追従できないサンプルへの使用には向きませんが、柔らかい素材であれば、クランプ力を分散して、局所的な圧力の集中を抑えることが可能です。

なお、波歯は適度にクランプ力を分散させつつも、平歯と比べると局所的にクランプ力が集中する歯形状です。この局所的なクランプ力の偏りが保持力を生み出し、平歯と比べて滑りにくくなるケースが少なくありません。(アルミホイルなど、波歯に追従できず引裂きに弱い素材では、平歯が解決策となる場合もあります。)

狙った位置で破断が起きるようにサンプル形状を加工する

ダンベル型(下図参照)と呼ばれるサンプル形状への変更は、チャック切れ対策として広く取り入れられています。
中央部の断面積を小さくすることで応力を増加させ、チャック部ではなく中央部で破断を生じさせることができるためです。JIS規格などでも、ダンベル型のサンプル形状が指示されているケースは少なくありません。

ダンベル型のサンプル形状イメージ / 中央部で破断させるためにサンプルが細くなっている

材料特性評価や品質管理では、繰り返し同じ形状のサンプルを作成する必要があるため、チャック歯の変更と比べると難易度は高くなります。しかし、チャック切れに対しては非常に効果的な対策といえます。

ミスアライメント(軸ズレ)による応力集中

チャック切れの原因となる局所的な応力集中は、ミスアライメントによっても発生します。ミスアライメントとは、上下チャックが軸ズレしている状態(真っ直ぐに揃っていない状態)を指し、チャック歯に対して一直線にサンプルが引っ張られない状態を引き起こします。その結果、チャック部付近に応力集中を生じやすくなり、チャック切れの原因となるケースが多く見られます。

▲ミスアライメントと応力集中の発生例(イメージ)

ミスアライメントに起因するチャック切れへの対策は、当然ながらミスアライメントを低減することにあります。具体的には、「シャフト治具を使用する」「チャック同士の距離をできるだけ近づける」などの方法により、アライメント調整を行います。また、チャックの掴み面の角度がずれている場合にも、応力集中の原因となります。掴み面の位置および角度のアライメントが適切に取れていることを確認することが大切です。

▲シャフト治具や直角定規などを使って軸ズレがないかを確認した後、チャック治具を取り付けて調整を行います。また、最終的にはサンプルを取り付けて、予備荷重をかけた状態でミスアライメントがないかを確認することが大切です。

[チャック切れ対策のまとめ]
● クランプ力を弱める
● チャック歯とサンプルの接触面積を広げる
● チャックの歯を、ウレタン歯や波歯に変更する
● 狙った位置で破断が起きるようにサンプル形状を加工する
● アライメント調整を行うことで応力集中を抑える

チャック滑りが起きる原因と対策

続いては「チャック滑り」の原因と対策です。
「チャック滑り」とは、引張試験中にサンプルがチャックから滑り抜けたり、滑って位置がズレたりする現象です。引張試験におけるサンプルの保持は、チャックとサンプル間の摩擦力に頼るところが大きいため、「チャック滑り」の対策も、この摩擦力をいかに高く維持するかが鍵となります。

チャック滑りとは、引張試験中にサンプルがチャック内で滑り抜ける、滑って位置がズレる現象

つまるところ「チャック滑り」の原因は摩擦力不足であり、言い換えると、次のいずれか(もしくは両方)の状況が発生した結果であると考えられます。

  • チャックのクランプ力が不足している(垂直抗力不足)
  • 掴み面とサンプルの相性が悪く、滑りやすい状況になっている(摩擦係数不足)

したがって、チャック滑りを防止するためには、クランプ力の確保滑り性の低減が重要となります。

クランプ力の確保(垂直抗力の向上)

単純に「チャック滑り」の防止だけを考えるのであれば、クランプ力を高めることが最も簡単な対策です。たとえばネジ式のチャックを使用している場合には、より強くねじを締付けることでクランプ力は増加します

しかし一方で、クランプ力の増加は「チャック切れ」の原因にもなり得るため、注意が必要です。前章でも触れたように、「チャック切れ」「チャック滑り」の両方を防ぐためには、それぞれの現象に適したクランプ力を見極め、適切にコントロールすることが重要です。

▲ネジ式チャック(左)とレバー式チャック(中央、右) レバー式は自己締付け機構を持つが初期クランプがネジ式と比べると弱い

なお、引張によって薄く伸びるサンプルを試験する場合には、試験中のクランプ力の低下に注意が必要です。自己締付け機構(引張力に従ってクランプ力が強くなる機構)を持たないチャックでは、サンプルが薄くなってもチャックの開き幅は変わらないため、試験中にクランプ力が低下してしまいます。その結果、試験途中で「チャック滑り」が発生するというわけです。

このような場合には、自己締付け機構を持つチャック治具の使用が有効です。ただし、自己締付け機構を備えた治具は、試験開始時のクランプ力がネジ式と比べて低くなる傾向がある点には注意が必要です。試験開始直後にチャック滑りが発生するようなケースでは、ネジ機構と自己締付け機構の両方を持つチャック治具なども、有効な選択肢となります。

具体的なチャック治具の選び方については、下記記事にもまとめています。ぜひあわせてご覧ください。

滑り性の低減(摩擦係数・機械抵抗の向上)

クランプ力の調整による問題解決が難しい場合には、滑り性を低減させる対策を考える必要があります。
滑り性の低減においては、次の2つのアプローチが考えられます。

  • チャック歯の素材や歯形状を変更する
  • サンプルが滑りにくくなるように加工する

チャック歯の素材や歯形状を変更する

チャック滑り対策としては、チャック歯の素材や形状を変更する方法も有効です。

引張試験で使用するチャック治具の歯はギザ歯が標準採用されていることが少なくありません。しかし、サンプルの表面が硬く、ギザ歯が十分に食い込まないような場合には、機械的な食い込みによる抵抗を確保できず、かえって滑りやすくなることがあります。こうした場合、十分に食い込むまでクランプ力を高めるというのもひとつの策ですが、歯の素材を変更するというのも有効なアプローチとなります。

【素材の変更による対策例】 チャック歯の素材をラバーに変更する

また、チャック歯形状の変更も、チャック滑り対策のひとつの選択肢です。たとえば「引裂きに弱いサンプルのため、平歯チャックを使っている」という場合には、波歯チャックを使用することで、接触面積やクランプ力の分布など、接触状態が変化し、チャック滑りが起こりにくくなるケースがあります。

【歯の形状の変更による対策例】平歯チャックから波歯チャックに変更する

サンプルが滑りにくくなるように加工する

サンプル側の表面状態を変化させることも、「チャック滑り」の低減に対する有効なアプローチです。
具体的な対策としては、次のような方法があげられます。

⚫ サンプルの掴み部に、ゴムシートや紙などの滑り止め材を貼り付ける
  → 貼り付けずに挟み込むだけでも効果が得られる場合もあります
⚫ サンプルの掴み部を紙やすりなどで粗くする

なお、過度な加工は測定結果に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。サンプルの加工は、掴み部に限定し、測定部には影響を与えない範囲で最小限に留めることが望まれます。(掴み部のみの加工であれば測定結果に影響がない、というわけではありませんのでご注意ください。)

[チャック滑り対策のまとめ]
● ネジ式のチャックを使用して初期クランプ力を強くする
● 伸びて薄くなるサンプルでは、自己締付け機構を持つチャック治具を使用する
● チャック歯の素材や形状をサンプルにあわせて変更する
● サンプルの掴み部に滑り止め材を貼るなど、滑りにくくなる加工を行う

まとめ

今回の記事では、引張試験で課題となりがちな「チャック切れ」「チャック滑り」について、発生原因とその対策方法を解説してきました。ここまで解説してきたとおり、「チャック切れ」と「チャック滑り」では、その対策方法がお互いの減少に影響を与えます。

そのため、「チャック切れ」「チャック滑り」の対策を考える際には、ひとつの対策だけを施すのではなく、複数の対策を組み合わせながら、どちらの現象も起こらない試験条件を見つけ出すことが大切です

株式会社イマダでは、お客様のサンプルをお預かりして測定可否の判断を行う「サンプル測定サービス」など、機器選定のためのビフォーサービスを提供しています。測定機器の導入を検討しているものの、自社のサンプルが「チャック切れ」「チャック滑り」を起こさないか心配という方は、下記リンクよりお気軽にご相談ください。

>>測定のご相談はこちら | 荷重測定専門メーカーのイマダ

最後に、「チャック切れ、チャック滑りが起きた場合の試験結果は有効なのか?」という疑問に対する回答です。この疑問への回答は「無効になるケースが多いが目的による」というのが実務的な結論です。たとえば、「破断荷重が〇〇Nを超えているか確認したい」という場合には、「チャック切れ・チャック滑りが基準の荷重値に達したあとで発生しているのであれば合格として問題ない」とForce Channelでは考えます。

ただし、「引張強度が〇〇~□□N/mm2の間にあるかを確認したい」という場合には、これらの測定結果に基づいて合格・不合格を判断することはできません。また、材料特性を数値化するという観点でも、チャック切れ、チャック滑りが起きた測定結果に基づく計算では不正確な数値となり、有効であるとはいえません。

なお、今回紹介をしたチャック切れ対策、チャック滑り対策は、試験条件を自由に変更できるという想定に基づいたものです。たとえば、「規格や顧客要求で試験条件が決められている」という場合には、対策により試験自体が無効と判断される場合があります。チャック歯の変更やサンプルの加工などを行う前には、規定された試験条件から外れていないかを確認されることをお薦めします。

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