その力、何ニュートン?
イマダでは、さまざまなチカラの測定に関するお問い合わせをいただきます。今回はその一例として踏力(とうりょく)試験をご紹介します。踏むのは車のブレーキペダルです。あのブレーキペダルを踏む力、どれくらいだと想像しますか?
高齢ドライバーについて
近年、高齢者による交通事故やそれに関する運転免許証の返納などが社会的問題となっています。国内の死亡事故件数は減少傾向にある一方で、75歳以上の高齢者については死亡事故数は横ばいであるため、全体に対する割合としては増加しています。その原因は操作不適によるものが最も多く、30%を超えています。報道で取り上げられることも多いブレーキとアクセルの踏み間違えによる事故はその一例です。
このような事故に対し、車の安全機能や後付け可能な予防装置などの話題と同時に注目されるのが運転免許証の自主返納制度問題ではないでしょうか。車は凶器になる、とよく言われますが、高齢者の自立や自由を実現するツールとしても非常に重要な役割を果たしています。地域による利便性の違いもある中で、多角的なアプローチが求められる難しい問題です。
意外とチカラが必要? 急ブレーキを踏む力
今回ブレーキペダルの踏力試験用製品に関してお問い合わせいただいたのは日本身障運転者支援機構様です。病気、障害のあるドライバーや高齢ドライバーの安全な自動車運転を支援することで、個人の自由や自立生活の促進を目的とされており、活動の一環として医療従事者、自動車教習指導員、行政機関職員を対象とした運転支援者養成のための教育プログラム運転支援者養成講座(運転リハフォーラム)をはじめとし、さまざまな活動をされています。
今回、研修会において十分な踏力で急ブレーキをかける難しさやその動作に必要な身体能力、動作や認知機能について考える機会として車のブレーキ踏力試験を実施されました。この測定調査では、自動車のブレーキペダルに設置した専用センサーを踏み込むことでその踏む力が測定されました。
設置イメージ (イマダ製 自動車フットブレーキ力専用ロードセル PK2-1500N(左下)と表示器)
今回測定されたのは、
1.通常の運転状態から急ブレーキをかける際の力
2.ブレーキ単体の操作で被験者の方が持つ最大の踏力
です。
30代から70代の計50名を超える被験者の測定結果は以下の通りです。
1.最大1312N 平均642N 最低178N
2.最大1601N 平均849N 最低307N
このように、平均値の比較でも約200Nの差が出たそうです。被験者の多くが急ブレーキを踏んだつもりでも、最大の力では踏めていないという結果となりました。そのほかに、ペダルの操作方法別の測定においては、足自体を持ち上げて踏み込んだときはかかとを付けたまま踏み込んだ場合よりも大きな踏力となったそうです。
(以上、日本身障運転者支援機構様 調査結果参照)
走行中の車を止めるためには大きな力が必要です。その重量や速度を考慮すると、足でペダルを踏むだけで止められるということが不思議なくらいです。それを実現するブレーキの仕組みにはさまざまな原理を活用した工夫があります。ブレーキを踏む力が弱い場合、ブレーキシステムにかかるチカラが十分に伝わらず適切に作動しないことで制動距離が長くなります。また、ABSなどのブレーキアシスト機能が本来の性能を発揮できず安全性低下につながる可能性もあります。事故回避のためには非常に重要な力なのですね。
安全を守るチカラに
現状、運転免許センターでの免許更新時には、75歳以上のドライバーは認知機能検査などを受けなければならず、その結果によっては医師の診断が求められ、最終的に免許停止や取り消しの可能性もあります。あるいは高齢ドライバー自らが医療機関へ相談するケースもあり、このような場面でブレーキ踏力試験が活用される場面も今後増加する可能性があるそうです。
今回いただいたお問い合わせは、力の測定が安全を守る手助けができると知る機会になりました。事故の衝突の力は速度と車体重量で変わりますが、それを防ぐブレーキもまた踏む力によって結果が変わります。生活の至る所にあるチカラ。イマダはその生活や関わるモノづくりをよりよく変えていけるチカラになれたらと願っています。
※最後になりましたが、今回の記事において、情報提供にご快諾いただいた日本身障運転者支援機構様へ感謝の意を表します。
(公式) 日本身障運転者支援機構2022 | 病気や障害、高齢のドライバーの安全運転支援するボランティア組織です。 (hcd-japan.com)
以下は弊社でご紹介しているブレーキの踏力測定動画です。
参考測定動画(※イマダの測定事例紹介動画です。上記でご紹介の実際に実施された試験とは異なります。)
フットブレーキの踏力測定 | 荷重測定専門メーカーのイマダ (forcegauge.net)
参考
警察庁交通局 令和3年における交通事故 の発生状況等について
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bunseki/nenkan/040303R03nenkan.pdf
内閣府 特集 「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策について」
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r02kou_haku/zenbun/genkyo/feature/feature_01_3.html
一般社団法人日本自動車工業会 高齢者と自動車運転について ~自動車からの技術的アプローチ~
https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/koureiunten/menkyoseido-bunkakai/2/kakushu-shiryou/0006.pdf
トヨタ産業技術記念館 創窓 館報 Vol.28 平成14年10月
https://www.tcmit.org/wp-content/uploads/vol.28.pdf
警察庁 認知機能検査について
認知機能検査について|警察庁Webサイト (npa.go.jp)
JAF(日本自動車連盟)ペダルの踏み間違いを防止するには?
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-trouble/subcategory-prevention/faq119