実験コラム 「超能力のチカラを測定 荷重測定から見つけたスプーン曲げのコツとは」

昔テレビで見たスプーン曲げに憧れを抱いたことはないだろうか?僕はある。家にあるスプーンを力一杯に曲げようとして母親に怒られたのは良い思い出だ。大人になってスプーン曲げへの憧れはすっかり忘れていたが、先日仕事でカトラリーの強度測定を行っていて、ふと気が付いた。荷重測定を使えば、スプーン曲げのコツが掴めるのではないだろうか?

「てこの原理が…」とか「ハンドパワーが…」とか、色々と言いたいことはあるかもしれないが、僕たちは荷重測定のプロである。原理的なことはさておき、とにかく荷重測定を繰り返すことで、スプーン曲げのコツを見つけ出してみようと思う。

目次

スプーンを簡単に曲げるために持つべき場所は…

テレビで見た超能力者のほとんどは、スプーンの皿の部分を正面に見せて柄を持ち、手前に皿を引いて折り曲げていたものだ。というわけで、まずは柄のどこを持てば小さな力で曲げられるのかを測定したいと思う。測定には、指に巻きつけて押し込み力を測定するフォースゲージ(荷重測定器)を使用する。下の画像の白色に部分に力が加わることで、その力の大きさが測れるという優れモノである。

測定結果の比較を行う際には、影響を知りたい部分以外の測定条件を統一することが重要だ。今回は、力を加える位置は変えずに固定位置を動かすことで、固定位置による曲げ強度への影響を比較する。スプーンの固定には、工場にあったバイスを使用した。比較には、スプーンが曲がるまでに必要となった力の最大値(最大荷重)を用いることにする。もちろんピーク値もフォースゲージで取得可能だ。固定する位置は、①柄の付け根、②柄の真ん中、③柄の先端の3か所で試してみる。


結果は、①40.0N、②36.4N、③39.1N。想像していたよりも差が小さい。ただ、結果は結果だ。

ひとまず、②柄の真ん中で固定した場合に、最も小さい力でスプーンの曲げることができるとしよう。それにしても、意外と簡単に曲げることができて驚いている。案外、持ち手側がしっかりと固定されているというのも重要な要素なのかもしれない。

スプーンを簡単に曲げるために力を加えるべき場所は…

持つべき場所は決まったので、次はスプーンの皿のどこに力を加えるべきかの測定を行う。測定には、先の測定と同じフォースゲージとバイスを使用する。今度は、固定位置は変えずに押す位置を動かすことで、曲げるために必要な力を比較することにした。押す位置は、①皿の先端、②皿の中心の2か所だ。なお、先の測定結果に基づいて、固定位置は柄の中央とした。


今回の測定結果では明らかな差が出た。②の最大荷重値が37.8Nだったのに対して、①では27.0Nの力でスプーンを曲げることができた。①皿の先端を押した場合の方が、より小さな力でスプーンを曲げられるようだ。ちなみに、以前ミニトマトの強度を測った時の結果が約30Nであった。つまり、スプーン曲げは、ミニトマトを潰すよりも小さな力で実現可能ということである。

はたしてスプーンは曲がるのか…

とうとう実践の時だ。測定から得られたコツは「柄の真ん中を持ち、皿の先端に力を加える」だけ。いざハンドパワー!!


………曲がらない。スプーンが動こうとする力に左手が負けてしまう。何度やっても上手くいかないし指が痛くなってきた。やはりバイスの影響は大きかったらしい。仕方がないので、オフィスに持ち帰って技術者に相談だ。

僕「…というわけで、左手が押し負けてしまうんですけど、筋力の問題ですかねぇ?」

技「柄の先端を小指で抑えてあげれば、上手くいくと思うよ。」

僕「………(本当に?)。」


半信半疑で試してみると曲がるではないか。力の世界とは難しいものだ。ただ、荷重測定でコツを掴むと言った手前、抑える側の指がどのような影響を与えるのかも測定をしてみる。親指の位置はそのままに、抑える指を変えて、各指に加わる力を測定してみた(先と同じフォースゲージを使用)。

人差し指:60Nを超えたところで、スプーンの動きを抑えることができなくなり断念

中指:60Nを超えたところで、スプーンの動きを抑えることができなくなり断念

薬指:45Nを超えたところで、スプーンが曲がり始める

小指:35Nを超えたところで、スプーンが曲がり始める


どうやら小指が非常に強いというわけではなく、柄の先端に近づけば近づくほど弱い力でスプーンの動きを抑えることができるようである念のために、皿を引く側の力に影響がないかも調べてみたが、スプーンが曲がった時の力の大きさには違いは見られなかった。(よくよく考えてみると「てこの原理=支点から離れるほど小さな力で力点に加わる力とつりあう」というやつですね…。)

まとめ

さて、諸々の測定結果をまとめると「①スプーンの柄の真ん中辺りを持つ、②柄を持った手の小指で柄の先端を押さえる、③反対の手でスプーンの皿の先端を手前に引く」。これがスプーンの曲げのコツのようだ。まとめてみると簡単だが、自分でやってみると意外とこのコツが見つけられないものである。

なお、スプーンの皿を手前に引くときには、決して指でつままないようにしてほしい。力を入れようと指でつまむと、柄に力が伝わらず、どれだけ力を入れてもスプーンが曲がらないからだ。また、「柄が細く薄いスプーン」を使用することも重要だ。柄が太く、厚みのあるスプーンは強度が高く、ハッキリ言ってコツを駆使しても曲げることは非常に難しい(実はこれが一番のコツなのかもしれない)。はたして読者の皆さんは無事にスプーンを曲げることができただろうか?皆さんがドヤ顔でスプーンを曲げていることを期待して、今回の記事は終わりにしたいと思う。

※スプーン曲げを子どもに見せると、家のスプーンを全力で曲げ始めますが、責任は持ちませんのでご注意ください。なお、フォースチャンネルでは、荷重測定やチカラに関する様々な記事をお届けしています。ぜひ、他の記事もチェックしてみてくださいね。

曲げ試験事例動画(3点曲げ):丸棒材の3点折り曲げ強度試験

曲げ試験事例動画(片持ち曲げ) :カトラリーの片持ち曲げ測定 

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