本記事では、摩擦係数の基本概念から計算方法、静摩擦係数と動摩擦係数の違い、代表的な測定事例まで網羅的に解説します。記事中、巻末には、摩擦係数測定の事例動画を公開しているリンクも掲載しています。摩擦係数を始めて学ぶ方から、製造業の品質管理担当者まで幅広く役に立つ内容です。

はじめに:摩擦係数測定の目的
摩擦係数とは、接触した2つの物体が滑り動く際の、滑りにくさを示す指標です。摩擦係数測定(摩擦試験とも呼ばれる)では、滑り動かすために必要な力(=最大摩擦力)を測定し、計算式に当てはめることで摩擦係数を導き出します。このようにして得られた摩擦係数は、「製造工程における搬送安定性の評価」や「操作性の数値化」など、さまざまな目的で測定されており、たとえば次のような試験が、研究開発や品質管理の現場で実施されています。
- 商品開発における操作性や書き心地の評価(スマートフォンの保護フィルム、筆記具など)
- 摩擦によるエネルギーロスの軽減、機械の負担軽減を目的とした潤滑油やグリースの品質試験
- 安全性確認を目的とした床材の滑り性測定(詳しい事例紹介記事:すべりを数値化するC.S.Rとは?)
- 搬送時のシワや滑りなどのトラブル回避を目的としたスリップ性評価(フィルム、紙など)
今回の記事では、「摩擦力と摩擦係数」の基本概念を説明するとともに、摩擦係数測定のために使用される測定機器、測定方法、測定事例について紹介します。
摩擦力と摩擦係数とは
具体的な測定方法などの紹介を行う前に、摩擦について簡単に説明します。
(既に摩擦に関する知識をお持ちの方は「摩擦力、摩擦係数の測定方法」の章まで読み飛ばしてください。)
摩擦とは、接触した2つの物体を滑り動かす際に、動きを妨げる力が発生をする現象です。この動きを妨げる力は摩擦力と呼ばれ、物体が静止している状態では、「滑り動かすために加えられている力」と同じ大きさの摩擦力が接触面に生じています。
しかし、物体(接触面)が生み出せる摩擦力には限界があり、その最大値(最大摩擦力)を超える力が加わると物体は滑り動きはじめます。最大摩擦力は「接触面が持つ滑りにくさの性質(摩擦係数)」、「接触する物体が接触面から受けている力(垂直抗力*1)」に影響を受け、物理学の世界では、以下の関係が成り立つとされています。
「最大摩擦力(N)」=「垂直抗力(N)」×「接触面の滑りにくさの性質(摩擦係数)」*2

*1 垂直抗力とは、接触面から物体に対して垂直にはたらく抗力を意味します。物体が接触面に力を加えるとき、力を加えた物体側にも同じ大きさの押し返す力(抗力)が発生しています。水平な場所に物体を置いた場合には、物体の質量を力(重力)に換算した値がそのまま垂直抗力となります。
*2 N(ニュートン)とは、国際単位系(SI)に定められた力の単位であり、摩擦力や垂直抗力の単位にはNが使用されます。
摩擦試験では、多くの場合、試験結果として摩擦係数が求められます。摩擦係数と最大摩擦力、垂直抗力の関係は上記の計算式で成り立つため、最大摩擦力と垂直抗力を測定すれば、摩擦係数は計算から導き出すことが可能です。(摩擦係数の測定が求められる理由としては、質量の影響を排除して、滑りにくさの性質を比較することができるためです。)
「摩擦係数」=「最大摩擦力(N)」/「垂直抗力(N)」
水平状態でモノが置かれている場合、垂直抗力(N)は下記の計算式で計算可能です。
垂直抗力(N)=重量(kg)×重力加速度(m/s2)
※地球上の重力加速度は、場所により異なりますが、国際協定標準値は9.80665m/s2とされています。
静摩擦係数と動摩擦係数の違い
物体が持つ滑りにくさの性質を表す摩擦係数ですが、摩擦係数には「静摩擦係数(静止摩擦係数とも呼ばれる)」「動摩擦係数」と呼ばれる2つの種類があります。
- 静摩擦係数:物体が静止状態から動き出しはじめるまでの滑りにくさを示す指標
- 動摩擦係数:物体が滑り動いている状態での滑りにくさを示す指標
一般的に摩擦係数は、静止状態から動き始める直前に最も高くなる場合が多く、動き始めたあとは、少し下がって安定した状態で推移をします。動摩擦係数の計算は、一定の移動範囲内の平均動摩擦係数から計算されることが多く、その区間が規格などによって定められているケースも少なくありません。
たとえば、次のグラフは印刷紙同士の摩擦係数測定を行った結果です。縦軸は摩擦係数(摩擦力(N)/垂直抗力(N)の計算結果)、横軸は時間経過を示します。グラフを見ると、動き始めに高い摩擦係数が測定された後、移動中は摩擦係数が少し下がって推移していることが見てとれます。

なお、摩擦力も摩擦係数と同じく、状態によって呼び方が分かれます。滑り動き出す直前に発生する摩擦力を静摩擦力、滑り動いている最中に発生する摩擦力を動摩擦力と呼びます。これに対応して静摩擦力、動摩擦力は、次の計算式で表されます。
静摩擦係数=静摩擦力(N)/垂直抗力(N)
動摩擦係数=動摩擦力(N)/垂直抗力(N)
[ここまでのまとめ]
● 摩擦力:接触した2つの物体を滑り動かす際に、動きを妨げる力
● 最大摩擦力:接触面が生み出せる摩擦力の限界値(摩擦係数と垂直抗力に影響を受ける)
● 垂直抗力:接触面から垂直にはたらく抗力(水平に置かれた物体の場合は重力)
● 摩擦係数:接触面の滑りにくさを示す指標(摩擦係数=最大摩擦力/垂直抗力)
● 静摩擦係数:静止状態から滑り動き始める際の摩擦係数
● 動摩擦係数:滑り動いている状態での摩擦係数(一般的に一定区間の平均値を求める)
摩擦力、摩擦係数の測定方法
摩擦係数の測定方法は、摩擦力と垂直抗力を測定した後に、摩擦係数=最大摩擦力(N)/垂直抗力(N)の計算式に当てはめて算出する方法が一般的です。摩擦力と垂直抗力の測定には、多くの場合、錘(おもり)などで垂直抗力を一定に維持した状態で物体を水平に滑り動かし、摩擦力を測定するという方法が用いられます。(JIS P 8147 (2010)*3やJIS K 7125 (1999)*4では水平法として紹介されている測定方法です。必ずしも規格にこだわる必要はありませんが参考までに。)
摩擦力の測定には、力(荷重)を測定できる測定器(フォースゲージ、ロードセルなど)が用いられ、駆動部には測定器が一定の速度で水平に移動する機構が求められます。

なお、静摩擦係数だけを測定したい場合には、測定全体における最大値だけを記録できれば十分ですが(例外あり)、動摩擦係数を測定したい場合には、連続的な測定値の記録が必要です。たとえば、イマダでは連続データを記録できるグラフ描画ソフトウェアを取り扱っており、追加機能と組み合わせることで、指定区間内の動摩擦力の平均値計算、摩擦係数への自動換算までを行うことができます。
*3 JIS P 8147 (2010)「紙及び板紙−静及び動摩擦係数の測定方法」測定動画を見る
*4 JIS K 7125 (1999)「プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法」測定動画を見る
摩擦係数測定時の注意点
摩擦係数測定を実施するにあたり注意するべきことは多岐にわたりますが、ここでは最も基本的な要素である次の3点について説明をします。
- 同じ物体でも表面状態によって摩擦係数にバラつきが生じる
- 測定結果の比較時には、条件を揃えた試験の結果間で比較を行う
- 摩擦係数は接触する2つの物体に対する係数である
同じ物体でも表面状態によって摩擦係数にバラつきが生じる
摩擦係数は、物体の表面状態に非常に影響を受けやすい指標です。たとえば、同じサンプルを繰り返し測定すると、摩擦により表面状態が変化して、摩擦係数も変化するということが起こります。
この表面状態の変化がよくわかる例が紙やすりです。下のグラフは紙やすりと合板とで、サンプルを交換せずに複数回摩擦係数測定を行った結果です。紙やすりによって合板の凹凸が削られた結果、静摩擦係数、平均動摩擦係数ともに1回目に比べ10回目の数値は小さくなっています。

上記事例における変化量(0.02~0.04の摩擦係数の低下)をどう捉えるかは個別事例での判断となりますが、大切なのは測定を繰り返すごとに摩擦係数に変化が起きているということです。なお、その変化の方向は必ずしも低下方向とは限りません。たとえば、滑り性の高いコーティングなどを使用している場合、繰り返しの摩擦によりコーティングが剥がれ、摩擦係数が上昇していくというケースも考えられます。
繰り返しの測定以外では、皮脂などの付着もサンプルの表面状態を変化させる要因です。サンプル表面に付着した皮脂は、潤滑油となって摩擦係数に影響を与える恐れがあります。そのため、サンプルのセッティング時には、接触面に触れることがないよう注意が必要です。
測定結果の比較時には、条件を揃えた試験の結果間で比較を行う
摩擦係数の測定に限らず、すべての測定結果の比較に関しては、比較対象以外の条件を統一することが重要です。たとえば、摩擦係数の比較時には、試験速度や温度環境、湿度環境に加えて、接触面積や垂直抗力の条件も揃えての比較が求められます。
物理学上、摩擦係数は垂直抗力の大きさに関わらず一定となるとされていますが(摩擦係数=摩擦力/垂直抗力)、現実には垂直抗力の大きさによって摩擦係数に違いが出るケースも少なくありません。次のグラフは、スマートフォンの保護フィルムとスタイラスペンの摩擦係数を測定した結果です。40g/60g/80gとウエイト重量を変化させるなかで、摩擦係数にも影響が出ていることがわかります。

摩擦係数は接触する2つの物体に対する係数である
摩擦係数は、物体固有の指標ではなく、2つの接触する物体の指標です。たとえば「ステンレスの摩擦係数を測定したい」と問い合わせを受けるケースがありますが、ステンレスと組み合わせる材料によって、その摩擦係数は大きく異なります。
たとえば、次のグラフは、垂直抗力を一定に保った状態でステンレスと各種材料の摩擦力を測定した結果を示した摩擦力-時間グラフです。グラフからは、同じステンレスを試験しても、相手材料によって摩擦力が異なることが見てわかります。)

同じ材料同士では滑りにくい場合も、相手となる材料が変わると、想像以上によく滑るということも少なくありません。上記を踏まえずに摩擦係数の測定や素材選定を行うと、製品化した際に想定よりも滑る/滑らないという問題が起こる恐れがあります。摩擦係数の測定時には、実際の製品使用時に接触をする素材の組み合わせで測定を行うことが大切です。
[摩擦係数測定時の注意点まとめ]
・意図した場合を除き、同じサンプルで繰り返し摩擦測定は行わない
・サンプルの接触面に触れることがないよう注意する
・摩擦係数の測定結果の比較時には、試験条件を揃えた試験の結果で比較を行う
・実製品使用時に接触する素材の組み合わせで測定を行う(規格などに準拠する場合は除く)

摩擦係数の測定事例
冒頭でも触れたとおり、摩擦係数はさまざまな場面、目的で測定されています。ここでは、実際に摩擦係数測定が行われている事例を3つ紹介します。
- 紙の摩擦係数測定
- プラスチックフィルムの摩擦係数測定
- スマホ保護フィルムとスタイラスペンの摩擦係数測定
紙の摩擦係数測定
紙の摩擦係数は、「印刷・製本・包装工程における搬送安定性」や「ペンで文字を書いた際の滑らかさ(書き心地)」などの品質管理、向上を目的に測定をされています。紙同士の摩擦係数を測定する場合もあれば、ゴムローラーによる搬送安定性の確認を目的に、紙とゴムの摩擦係数を測定する場合もあります。
ここでは、紙の摩擦係数測定の代表的な規格であるJIS P 8147 (2010)「紙及び板紙−静及び動摩擦係数の測定方法」で規定されている水平法を例にあげて測定の手順を紹介します。この試験は紙同士の摩擦係数を測定することを目的にしていますが、片側のサンプルを変更することで、たとえば紙とプラスチックフィルムなどの摩擦係数測定にも活用が可能です。
| 手順① サンプルから試験片を切り出します(画像左:下側試験片、画像右:上側試験片) | 手順② 試験台に下側試験片を設置、錘(おもり)下面に上側試験片を固定し、重なるよう設置します。 | 手順③ 錘(おもり)を一定速度で引っ張り、摩擦力を測定し、摩擦係数に換算します |
|---|---|---|
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次のグラフは、JIS P 8147 (2010)の水平法に従って測定した摩擦力のグラフです。「静摩擦係数と動摩擦係数の違い」の章で述べたとおり、動き出しの瞬間に摩擦力が大きく上昇した後、移動中は少し摩擦力が下がった状態で維持されていることが見て取れます。

なお、イマダのグラフ描画ソフトウェア、追加機能を使用すれば、静摩擦係数、指定区間における動摩擦係数を自動で計算、表示させることができます。詳しく知りたい方は、下記リンクよりイマダの製品・サービスサイトをご覧ください。
>>紙の摩擦係数測定の動画、摩擦係数測定ユニットの詳細を見る
■ 傾斜法について
JIS P 8147 (2010)には、摩擦係数測定の方法として「傾斜法」と呼ばれる測定方法も規定をさています。傾斜法は、静摩擦係数の測定を目的とした測定方法で、試験台に試験片と錘(おもり)を設置した後に試験台の角度を徐々に傾け、滑り出した角度から摩擦係数を計算します。(詳細な測定方法や計算方法については、JIS規格をご参照ください。)
プラスチックフィルムの摩擦係数測定
プラスチックフィルムの摩擦係数は、「ロール搬送や包装ラインにおける搬送安定性」や「包装パッケージの陳列作業性」などの品質管理、向上を目的に測定をされています。また、スマホの保護フィルムなどでは、指やスタイラスペンの滑り心地評価にも摩擦係数測定が用いられています。
代表的なプラスチックフィルムの摩擦係数測定の規格には、JIS K 7125 (1999)「プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法」があります。測定手順としては、紙の摩擦係数測定の規格であるJIS P 8147 (2010)と大きく変わりはありませんが、下記に改めて測定手順を紹介します。
| 手順① サンプルから試験片を切り出します(画像左:下側試験片、画像右:上側試験片) | 手順② 試験台に下側試験片を設置、錘(おもり)下面に上側試験片を貼り付け、重なるよう設置します | 手順③ 錘(おもり)を一定速度で引っ張り、摩擦力を測定し、摩擦係数に換算します |
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JIS K 7125(1999)とJIS P 8147(2010)の違いとしては、試験片の固定方法や錘(おもり)重量、試験速度などがあげられます。摩擦係数の計算方法は、これまでと同じく「最大摩擦力(N)」/「垂直抗力(N)」です。(垂直抗力は、錘(おもり)重量(kg)×重力加速度(m/s2)で計算します。)
測定動画や測定ユニットの構成例など、詳しい情報をご覧になりたい場合には、下記リンクよりイマダの製品・サービスサイトをご覧ください。
>>プラスチックフィルムの摩擦係数測定の動画、摩擦係数測定ユニットの詳細を見る
スマホ保護フィルムとスタイラスペンの摩擦係数測定
紙やフィルムのように、平面の試験片が準備できるサンプルでは、試験片と錘(おもり)を重ね合わせて摩擦力を測定することで、摩擦係数を計算することが可能でした。しかし、平面ではないサンプルの摩擦係数測定を行うためには、これまでとは異なる機構が試験ユニットに求められます。
たとえば次の写真は、スマホ保護フィルムとスタイラスペンの摩擦係数を測定するための測定ユニットの一例です。平面の試験片の上に、スタイラスペンなどのサンプルが無負荷状態で立てられるようになっており、垂直抗力はサンプル上方にある皿の上に分銅を載せることで管理が可能です。

| 手順① 試験台に下側試験片を設置、サンプルホルダーに上側サンプルを設置します | 手順②カウンターウエイトで左右均衡状態を作った後に、上部サンプル上の皿に錘(おもり)を載せて垂直抗力を管理します | 手順③ サンプルを一定速度で水平に滑らせ、摩擦力を測定し、摩擦係数に換算します |
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上記の測定ユニットを使用することで、「ペンと紙」「口紅と人口皮膚」「ボールオンプレート法による潤滑性試験」などの摩擦係数測定を行うことが可能です。詳しい情報をご覧になりたい場合には、下記リンクよりイマダの製品・サービスサイトをご覧ください。
>>筆記具の摩擦係数測定の動画、摩擦係数測定ユニットの詳細を見る
>>潤滑剤の摩擦係数測定(ボールオンプレート法)の動画、摩擦係数測定ユニットの詳細を見る

まとめ
本記事では、摩擦係数測定に関する基礎から、計算式、静摩擦係数と動摩擦係数の違い、代表的な測定事例まで幅広く説明をしてきました。摩擦係数は「滑りやすさ」を評価するうえで欠かせない指標です。
測定方法や測定機器に関してご相談をご希望の場合には、イマダにて技術相談も受け付けております。また、イマダの製品・サービスサイトでは、摩擦係数測定の事例動画も多数公開しています。下記リンクより動画をまとめたページをご覧いただけますので、ぜひご活用ください。










