「和牛/Wagyu」といえば、国内外問わず高く評価されている、日本が誇る食材ではないでしょうか。以前より有名な神戸牛や飛騨牛、松坂牛はもちろん、イマダのある豊橋に来てからは、田原牛や浜松の三ケ日牛なども聞くようになりました。「黒毛和牛」という言葉もあるからか、和牛は黒い毛で覆われているイメージでしたが、中には薄茶の毛をもつ褐色和種(通称あかうし)と呼ばれるレアな牛もいるようです。その中でも、高知県でしか飼育されておらず、わずか2400頭しか存在しないという「土佐あかうし」の話を聞きに、高知大学農林海洋科学部にお邪魔しました。
【空港の目の前に存在するアクセス至便なキャンパスです】
・「幻の和牛」の絶やさないために
今回お話を伺ったのは、高知大学農林海洋科学部の松川准教授。専門は家畜繁殖学/発生工学で、高知大学にて15年近く、「土佐あかうし」の研究を続けています。
研究目的の一つは、個体数の少ない希少和牛である「土佐あかうし」の種の保存。イマダにコンタクトされたのも、ウシ由来の細胞で作った人工牛肉の食感の測定にIMADAのレオメーターの利用を検討されたのがきっかけです。こうした培養細胞による人口牛肉の研究や、フリーズドライ技術を応用した遺伝資源保存技術といった種を絶やさないことにダイレクトにかかわる研究はもちろん、「土佐あかうし」の飼育数自体を増やすため、大学の牛舎も活用しながら、畜産農家の作業工程を減らすような実証研究や、生産者の所得増加につながる食材としての品質向上に関する研究もおこなわれています。
【高知大学では、約90頭の土佐あかうしを飼育しているそうです】
・赤身が多くヘルシーなのに旨味たっぷりで柔らかい
黒毛和種に比べ、褐色和種はさしが少ない分赤身とのバランスがよく、アミノ酸が多くヘルシーといわれ、この点「土佐あかうし」の肉も同様です。
それに加え、「土佐あかうし」ならではのおいしさが、そのやわらかさです。高知を代表する農作物である「ゆず」を使った飼料を食べて育てられた「土佐あかうし」は、その肉に不飽和脂肪酸であるオレイン酸を多く含む結果、脂肪融点が低いことがわかっています。
【ゆずが入った飼料】
脂肪融点が低いと、牛肉を口にしたときに、くちどけが良くなるといわれています。その実証のために、松川准教授のチームでは、レオメーターを使って土佐あかうしと他の牛肉の硬さを測定する計画を立てています。
【IMADAレオメーターで牛肉の硬さを測っている松川研究室の坂野助教】
前述のように、褐色和種である土佐あかうしの肉は、さしが黒毛和種より少ないため、ヘルシーである一方、硬い触感をイメージされがちです。しかし、実際には以下の表にあるように、松川准教授の研究室でのレオメーターを使った測定では、生肉の状態でも加熱調理後も、黒毛和種と硬さ(=治具を押し込んだ時の荷重値)に大きな違いが出ないケースも確認されています。
品種 | 硬さ(N) | 押し込み量(㎜) |
---|---|---|
黒毛和種(焼き) | 0.138 | 0.477 |
褐毛和種(焼き) | 0.218 | 0.452 |
黒毛和種(生) | 0.077 | 0.497 |
褐毛和種(生) | 0.071 | 0.497 |
【レオメーターを使った各牛種培養肉の硬さ測定結果】
今後は、より多くの牛肉や調理方法間での比較もするほか、えさを変えて飼育した土佐あかうし間での比較なども行い、多面的に評価をすすめていくとのことでした。
松川先生の研究は、生物多様性の保護はもちろん、地域経済の活性化やおいしくヘルシーな食材の開発など、様々な社会的意義のある活動だと感じました。地域社会への貢献を目指す文化に掲げるイマダとしても、引き続き可能なご支援をしていきたいと思います。
イマダの文化についてはこちら
松川先生の土佐あかうしプロジェクト詳細はこちらをご覧ください。
(よみがえれ!幻の和牛― 土佐あかうしプロジェクト https://www.kochi-u.ac.jp/agrimar/japan/research/research2015/2015_1.html)
★編集後記
その個体数の少なさから、東京・大阪といった大都市や高知県内の一部以外滅多に流通してない「土佐あかうし」。今回のインタビューも日帰り出張のタイトなスケジュールで、市街地に行く時間もないため、実食をあきらめていたのですが、なんと空港で奇跡的に1個残っていた土佐あかうしを使ったサンドイッチを発見!
即決で買いました。
歯ごたえのある衣に包まれた土佐あかうしの肉は、話に聞いた通り柔らかく、特にミディアムレアな感じに調理された牛かつの中心は、肉本来のおいしさと、くどさのないさっぱりした後味を楽しむことができ、この幸運に心から感謝したくなりました。皆様も、「土佐あかうし」を見かけることがあれば、一度ご賞味いただくことをお勧めします。