摩擦試験紹介③ 『摩擦による表面状態の変化』

摩擦試験を紹介しているこの連載記事では、ここまで「紙の摩擦試験」や「アイライナーと人工皮膚の摩擦試験」など、様々な摩擦試験を紹介してきました。最終回となる第3回の今回は、摩擦によるサンプルの変化を見る試験として、「摩耗試験」を紹介します。

摩擦試験紹介① 『面と面で接触する摩擦試験』の記事はこちら
摩擦試験紹介② 『面と点で接触する摩擦試験』の記事はこちら


第1回の記事でお話したとおり、接触している2つの物体を、滑らせるように動かすと、動きを妨げるチカラ(摩擦力)が発生します。摩擦力が発生する理由の一つは、物体の表面にある細かな凹凸です。物体の表面にある凹凸同士が凝着や引っかきなどを起こすことが、滑り動くことへの抵抗力に繋がっています。凹凸同士の凝着や引っかきなどは、摩擦力の要因となる一方で、ミクロな視点では物体表面の凹凸の破壊を引き起こしています。

上記のような物体表面の破壊は摩耗と呼ばれ、摩耗試験では、摩耗特性を評価することを目的に、摩耗量(体積や重量の変化)や物性の変化(摩擦力、摩擦係数、光沢など)を測定します。


たとえば、上の画像は木の板と紙やすりを使用した摩耗試験の様子です。一定の荷重で木板に接した紙やすりが左右に動くことで、サンプルに摩擦を発生させています。今回の試験では、約6cmの距離を50往復させながら、摩擦力の測定を行いました。下の図表は50往復の間での摩擦力、摩擦係数の推移を表しています。(往路=左方向へ移動する際の摩擦力はプラス方向、復路=右方向へ移動する際の摩擦力はマイナス方向で測定をしています)


測定結果からは、摩耗特性に対して下記のような分析をおこなうことが可能です。

– 1往復目と50往復目での摩擦力の変化(例:往路における平均動摩擦力が1.004N減少)
– 50往復するまでにおける摩擦力の推移(例:10往復の間に静摩擦力は大きく減少し、往復回数が増えるにつれて静摩擦力の変化量が逓減する)

しかし一方で、上記の試験では、木板と紙やすりの両方に摩耗が起きていることに注意が必要です。試験結果からだけでは、摩擦力の減少が、「木板の摩耗」と「紙やすりの摩耗」のどちらに起因するものかを区別することができません。そのため、木板に対する紙やすりの研磨性を評価する場合には、上記に加えて、別途で研磨前後に評価試験を行うことが求められます。たとえば下記のグラフは、研磨前後に、人工皮膚を使って木板の摩擦力を測定した結果です。研磨を行ったことで、摩擦力が大きく減少したことがわかります。

上記の測定では、2種類の紙やすりで研磨をおこない、各々に摩擦力を測定し、その変化量を計算しました。2つの測定において、木板の表面は均一ではないため(木目など)、研磨前の摩擦力測定から摩擦力に違いが出ています。そのため、1回の試験だけでサンプルを比較評価することはできませんが、複数回の試験を実施して、統計値を計算することで、木板に対する紙やすりの研磨性を比較することが可能です。


さて今回の記事では、摩擦によるサンプルの変化を見る試験として「摩耗試験」の紹介をしました。シリーズとして連載してきた「摩擦試験紹介」の記事は今回で終わりとなりますが、摩擦試験について理解を深めていただくことはできたでしょうか。シリーズ中でも何度も触れたとおり、さまざまな要因によって摩擦力は影響を受けます。摩擦力の比較を行う際には、比較したい要素以外の条件をしっかりと揃えることが大切です。

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※摩擦試験の測定事例動画はこちらからご覧いただけます。

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