測定器にとって、より正確な測定値を示すことは、最も重要な役割のひとつです。たとえば、「100Nのチカラが加わった時に、130Nと表示する荷重測定器」では、正しい測定結果を得ることができません。
新品購入時には、出荷前にメーカーにて、測定器が正しい値を示すように調整がおこなわれます。しかし、測定器が表示する値は、経年変化や使用環境により変化することがあるため、定期的な測定値の確認(=校正)と調整が必要です。今回の記事では、以下の疑問に回答をしながら、より正確な測定値を維持するために重要な校正について紹介をします。
- 荷重測定器の校正とは?
- 校正はなぜ必要?校正しないとどうなる?
- 一般校正、メーカー校正、ISO/IEC17025校正、JCSS校正の違いって何?
- 結局どの書類を発行してもらえばいいの?
荷重測定器における校正とは
荷重測定器における校正とは、標準器を用いて一定のチカラを加え、測定器が示す値を確認する作業です。標準器が示す荷重値(標準値)と、実際の表示値を比較することで、測定結果の正しさを確認することができます。
たとえば、参照標準分銅を使って、50Nのチカラを測定器に加えた結果、50.08Nと表示されたのであれば、その差は「+0.08N」であることがわかります。同様の確認作業をいくつかのポイントでおこなうことで、校正時の測定値が許容できる範囲内に収まっているかを把握することが可能です*1。
測定器の校正が果たす最も重要な役割は、測定器が示す値の信頼性を確保することです。
もしも校正の結果、標準値と測定値の差が自社の管理基準値外であることが判明した場合、「いつから管理基準から外れていたのか」、「これまでに測定した結果=製品の品質に問題はないか」といった問題が起こりえます。そうした問題を避けるためにも、測定器は定期的に校正をおこない、測定値のズレの予兆を早期に発見し、必要に応じた修理、調整をおこなうことが大切です。使用環境や使用頻度にもよりますが、1年に1回以上の頻度で期間を決めて、定期的に校正をおこなうことをお薦めします。
なお、測定器における校正では、一般的に測定値の調整を、その作業内容には含めません。そのため、校正の結果が自社の要求する範囲内に入っていないのであれば、別途測定値の調整(修理)をおこなうという流れになります*2。
*1 実際には各ポイントで複数回の測定をおこない、実測値を決定します。また、校正結果を証明できるのは、校正をおこなったポイント(荷重値)においてのみです。ポイント間のチカラが加わった際の測定値の正しさは推定となります。必要に応じて細かくポイントを設けて校正をおこなうことをおすすめします。
*2 調整よって各測定器が実現できる測定値の正しさには限界があります。詳しくは各測定器メーカーにお問い合わせください。なお、イマダのメーカー校正では、校正結果(実測値)の合否判定基準として各測定器が持つ仕様上の精度を使用しております。
定期校正を依頼できる校正機関
測定器の購入時には、多くの場合、メーカーにより出荷前校正がおこなわれます。 購入後の定期校正では、次の2つから校正依頼先を選ぶことが一般的です。
- 測定器の製造元メーカー(校正サービスを提供している場合)
- 荷重測定器の校正が可能な専門業者
校正機関を選ぶ際には、製品を熟知し、厳密な作業手順をもって校正をおこなってくれる校正機関を選ぶことが大切です。製品に対する知識量は、測定器の異常に対する察知能力にもつながります。製造元メーカーがおこなう校正では、測定値のズレや故障が見つかった際に、スムーズに修理に移行できるのも利点のひとつです。
なお、社内規定や取引先要望により、ISO/IEC17025校正と呼ばれる認定校正*3を求められる場合があります。その場合には、ISO/IEC17025校正機関として認定を受けた校正機関から、校正依頼先を選ばなければなりません。
製造元メーカーが、ISO/IEC17025校正機関として認定を受けていれば、製造元メーカーに依頼することも可能です。また、購入時の出荷前校正をISO/IEC17025校正に変更できる場合もありますので、詳しくは各測定器メーカーにご確認ください。
*3 「認定校正」とは、外部認定機関の認定を受けた校正機関が、認定を受けた校正方法でおこなう校正です。認定校正以外の校正は「一般校正」、製造元メーカーがおこなう一般校正は「メーカー校正」と呼ばれます。
ISO/IEC17025校正とは
ISO/IEC17025校正とは、外部認定機関による認定を受けた校正機関が、認定を受けた作業手順に則っておこなう校正です。ISO/IEC17025に規定された要求基準をもとに審査、認定がおこなわれることより、ISO/IEC17025校正と呼ばれます。
ISO/IEC17025校正が求められる背景のひとつが、ビジネスのグローバル化です。国際的なビジネスをおこなう企業が増えた昨今では、より国際的に通用する校正結果、校正証明書が求められます。ISO/IEC17025校正は、その認定基準となる国際規格ISO/IEC17025の信頼性により、今後ますますその需要が増していくものと予想されます。
ISO/IEC17025校正のような認定校正では、各校正機関が審査を受ける「ISO/IEC17025校正機関認定」の、認定基準の信頼性が校正結果、校正証明書に対する信頼性につながります。はたして、認定基準の信頼性はどのように判断すればよいでしょうか。
世界には、ISO/IEC17025に規定された要求基準に基づき、校正機関へ認定を与えている認定機関が数多く存在します。各認定機関の認定基準を各ユーザーが精査するのは、あまり現実的ではありません。
この問題を解決するために生まれたのが「相互承認協定(MRA)」です。MRAとは、認定機関同士が互いの認定基準を評価することで、ひとつの規格に対して同等の基準で認定していることを承認しあう仕組みです。
たとえば、ISO/IEC17025校正に関連する最も大きなMRAに、ILAC-MRAがあります。ILAC-MRAには、90を超える認定機関*4が相互承認に参加をしています。
ILAC-MRA登録認定機関による認定を受けた校正機関は、発行するISO/IEC17025校正証明書に、ILAC-MRAのシンボルマークを記載します。ILAC-MRA登録認定機関が認める認定基準で、ISO/IEC17025校正機関としての認定を受けていることの証明です。校正の認定機関が違っていても、ILCA-MRAマークが付いている限り、同等の認定基準に合格した校正機関、校正方法によりおこなわれた校正結果であることを証明していると認められます。
なお、ISO/IEC17025校正の依頼先が、ILAC-MRA登録認定機関からISO/IEC17025校正機関としての認定を受けていると、校正を依頼する側は、次のようなメリットが得られます。
- 校正機関が受けているISO/IEC17025校正機関認定の正当性が確認できる。
- 国際的に認められる校正結果(証明書)が得られる。
- 日本国内でも多くの場面で、校正証明書の高い信頼性が確保される。
JCSS校正とISO/IEC17025校正の違いって何?
日本では、「JCSS校正」と呼ばれる校正を耳にすることがあります。JCSS校正とは、JCSSの校正事業者登録制度に登録した校正機関でのみ、おこなうことができる校正です。登録基準として、ISO/IEC 17025の要求事項を採用していることより、JCSS校正はISO/IEC17025校正のひとつと言えます。
一方で、JCSSの校正事業者登録制度の認定センターであるIA Japanは、ILAC-MRAに参加をしています*4。そのため、ILAC-MRAマーク付き校正証明書は、JCSS校正であるか否かにかかわらず、同等の認定基準に合格した校正機関、校正手順によっておこなわれた校正の結果であることを証明していると認められます。
*4 2024年4月現在の情報です。
校正とトレーサビリティ
校正結果の信頼性を考えるとき、校正に使用した標準器(分銅など)の数値が正しいかという視点があります。たとえ校正機関が厳密な手順に則って校正を行ったとしても、標準器の数値が信頼できないものであれば、校正結果も信頼することができません。
ここで登場をする言葉が「トレーサビリティ」です。トレーサビリティとは、以下の2つの要件の満たしている状態を指します。トレーサビリティが証明されることで、基準となる標準器、さらには校正の結果が信頼に足るものであると証明がされます。
[トレーサビリティの要件]
- 「校正に使われた標準器が明らかであること」「その標準器の校正に使われた親標準器が明らかであること」の連鎖に切れ目がないこと。
- 連鎖の結果として、国家計量標準と呼ばれる、国家が認めた標準器にたどり着くこと。
トレーサビリティを証明する資料は、必ず発行してもらう必要があるものではありません。ただし近年では、ISO9001や社内基準、取引先要望などによって、校正結果のトレーサビリティの証明が求められる機会が多くなっています。自社の状況を見極め、「どこまでの証明書を準備するのか」を決めることが大切です。
なお、トレーサビリティの証明は、一般校正、ISO/IEC17025ともに、「校正証明書」によっておこなわれます*5。また、トレーサビリティの証明の信頼性を補完する書類として「トレーサビリティ体系図」も多くの校正機関で発行可能です。
*5 校正機関により異なる場合があります。詳しくは各校正機関にご確認ください。
目的にあわせた校正の運用を
ここまで、荷重測定器における校正について紹介をしてきました。校正の運用(依頼校正機関、校正頻度、発行書類など)については、校正を依頼する目的を明確化して検討することが大切です。
たとえば、製品の品質には影響を与えない、社内用の確認に使用するための測定器であれば、「校正証明書」や「トレーサビリティ体系図」は発行の必要がないかもしれません。(もちろん、社内基準などは確認する必要があります。)
一方で、製品の品質管理に使用するのであれば、自社が定める管理基準はもちろん、取引先の要求基準も考慮に入れながら、場合によってはISO/IEC17025校正を選ぶ必要もあるかもしれません。また、ISO9001認証を受けたいなどの場合には、認証基準をしっかりと確認して、校正の運用ルールを決めることが大切です。
イマダでは、自社製品への校正サービスの提供はもちろん、測定器の日常点検や自社校正に使用できる器具の提供もおこなっております。校正や測定値の調整、修理に関するご相談も製品・サービスサイトより随時受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
以上、今回は荷重測定器の校正にかかわる基礎知識の紹介でした。
– 本記事に表現された意見、解釈は、株式会社イマダによるものです。株式会社イマダのISO/IEC17025校正認定機関であるPJLAによる認定を受けたものではありません。