剥離試験をより効果的に行うためにはいくつかのポイントがあります。
粘着テープ・粘着シートの剥離試験方法を定めたJIS Z 0237 (2022) 「粘着テープ・粘着シート試験方法」というJIS規格がありますが、実際に規格に基づいた測定をしない場合にも、試験片がテープやシートでない場合にも参考になる点が多いので、そちらに基づきながら、どのようなポイントを抑えるとより効果的に剥離試験ができるかを紹介したいと思います。
ポイントは5つです:
1. 試験速度を一定に
2. まっすぐに引き剥がす
3. 温度・湿度にも注意
4. 貼る面の準備を万端に
5. 試験片を均一にまっすぐ貼る
ポイント1~3は剥離試験全般に共通する事、4&5は特に感圧性の粘着テープなどの剥離試験のポイントとなります。
それぞれ詳細を見てきましょう。(青字がJIS Z 0237 (2022)「粘着テープ・粘着シート試験方法」からの引用と引用元の箇条番号、黒字と赤字部分は株式会社イマダの見解・解説です。)
試験速度を一定に
剥離試験では、その試験片を剥がす力の平均を出す必要があるため、剥がす速度を一定にするのが重要です。剥がす速度にばらつきがあると、平均値に影響を及ぼすためです。手で引っ張って剥がす方法では、速度を一定にするのが難しいので、電動の測定器を使用して試験片を引っ張ることが強く推奨されます。
JIS Z 0237 (2022)では、試験速度は次のように定められています。
「5.0 mm/s±0.2 mm/sで運転する。」(10.4引き剥がし粘着力の測定)
「測定開始後,最初の25 mmの長さの測定値は無視する。その後試験板から引きがされた50 mmの長さの粘着力測定値を平均し,引きがし粘着力の値として使用する」(10.4引き剥がし粘着力の測定)
規格に準拠しない場合も、試験片が粘着テープやシートであれば、5.0 mm/s±0.2 mm/s(=約300mm/min)の速さで、かつ一番初めの剥がし始め(2.5cm)は無視して、それ以降の測定値を採用すれば間違いないということです。試験片がどんなものであっても、とにかく毎試験の速度を一定に保つことが重要です。
まっすぐに引き剥がす
剥離試験には、引っ張って剥がす(剥がそうとする)という工程が必ずあると思いますが、その際に、任意の角度を保ちながらまっすぐに引っ張ることが重要です。試験片にねじれがある状態で引っ張ったり、引っ張る角度がブレてしまったりすると、センサーにその剥がす力がうまく伝わらず、正確に測定することができません。
温度・湿度にも注意
接着剤や粘着テープなどの接着性というのは、温度と湿度に大きく影響されます。ですので、JIS Z 0237 (2022)でも、温度と湿度は下記のように定められています。
「特に指定のない限り標準状態[温度23 ℃±1 ℃,湿度(50±5)%]で行う。」(10.3試験方法、10.3.1一般)
必ずしも上記通りでなくても、温度と湿度を一定に保てる環境で試験を行えるのが理想です。(もちろん、該当のJIS規格に準拠した測定を行う場合は、上記の数字を守る必要があります。)
次からのポイント4&5は特に感圧性の粘着テープなどの試験の際のポイントとなります。
貼る面の準備を万端に
粘着テープなどの剥離試験をする際には、当たり前ですが、まずは試験片を貼る必要があります。貼る表面に問題があると試験の結果を正しく求めることはできません。要は、ベストな接着状態で試験片を貼ることが大事ということです。
JIS Z 0237 (2022)内ではどのように貼る表面に関してどのように定めているか一部抜粋して見てみましょう。
「試験する部分の粘着面には,ほこり(埃)の付着があってはならない。また,粘着面に素手で触れたり他の異物に触れてはならない。」(10.1試験片)
a)試験板の洗浄溶剤は,ジアセトンアルコール(4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン),メタノール,
メチルエチルケトン,アセトン及びn-ヘプタンの中から一つ以上選択して使用できるものとする。
なお,溶剤は,試薬用又は残さのない工業用薬品以上の品質とする。」(10.2.2試験板 a))
c) a)の中から選んだ溶剤を布などにしみ込ませ,試験板の表面を拭く。乾いてから,新しい布などで乾
燥するまで更によく拭く。このように溶剤での洗浄を目視によって清浄になったとみられるまで3回
以上繰り返して行う。(10.2.2試験板 c))
かみ砕いて言いますと、試験片を貼る表面のベストな状態とは、すなわち下記A~Dを満たしている状態と言えます。規格に準拠する必要が無い場合、下記の通りの方法で表面をきれいにすれば十分です。
A 水分が無い ←乾いた布などで拭いて除去する
B 油分が無い ←アルコールなどをしみこませた布で拭いて除去する
C ほこりなどくずがない ←ブラシや乾いた布で除去する
D 傷が無い ←著しい傷がある場合は、取り換えることが推奨されます
※ 布は、手術用ガーゼや脱脂綿など、くずが出ずに表面を傷つけないものがおすすめです。
とにかく表面には触らず、傷や汚れの無いきれいな状態にするという事です。
そもそも試験片を貼る板はどのような素材のものが良いのでしょうか? JIS Z0237 (2022)内では、下記仕様の板を使用することが定められています。
「試験板は,JIS G 4305に規定するSUS304鋼板で,表面仕上げBA(冷間圧延後,光輝熱処理)の鋼板を使用し,表面粗さは,JIS B 0601に規定するRa : 15 nm~75 nmのものとする。」(10.2.2試験板)
要は、鏡面のような光沢のあるステンレス製の板ということです。このJIS規格に準拠する測定となると、粗さの指定まであります。が、通常は汚れや傷の無いピカピカのステンレス板を使えば十分です。
試験片を均一にまっすぐ貼る
貼る表面をきれいにしたのは試験片を均一に貼るためです。面の汚れなどによって剥がれやすくなっているなどのムラが無いようにしたという事です。
JIS Z0237 (2022)では、「空気が入った場合は,この試験は無効とする。」(10.3.2試験手順)とされるほどで、とにかく剥離試験においては一定の強さでムラなく均一に貼られていることが重要ということです。ですのでこのJIS規格では、下記のような圧着ローラーを使用して均一に圧をかけて試験片を貼り付けるよう定められています。
このJIS規格に準拠する必要が無い場合でも、このようなローラーを使用することが推奨されます。と言いますのは、なかなか試験片を均一に貼るのは難しく、手でテープを貼り付けると、体温が伝わってしまいますし、貼り付ける力も個人差が出やすいためです。
ちなみにこのようなローラーを使用する場合は、そのローラーの重さだけをかけることで圧を均一に保つことが狙いなので、上から力を入れず滑らせるようにテープに圧をかけます。ローラーを使ってテープを貼り付ける様子は下記動画でご覧いただけます。
均一に貼ると同時に、まっすぐ貼ることも重要です。ポイント2でまっすぐ引き剥がすことが重要とお伝えしましたが、そもそもまっすぐ貼られていなければまっすぐに引き剥がすこともできません。貼るのも引きはがすのも「まっすぐに」を意識してください。
またJIS Z 0237 (2022)では、下記のような指定もあります。
「試験片はローラ圧着後,1分以内に引きがし試験を行う。」(10.3.2試験手順)
規格に準拠した測定をしない場合も、圧着後に試験を開始するまでの時間も統一して制限をしておくと尚良いですね。
最後に…
剥離試験機メーカーとして、今回は剥離試験を効果的に行う方法をご紹介させて頂きました。
株式会社イマダでは、こちらでご紹介したJIS Z 0237 (2022)の「10 粘着力」に準拠した測定ができる剥離試験機をはじめ、90度剥離試験機、その他多様な剥離試験機を製造しています。
ご興味ございましたら下記の弊社製品サイトより詳細をご覧ください。
180度剥離試験機&事例(JIS Z 0237 (2022)に一部準拠)>
90度剥離試験機>
剥離試験事例集(動画)>