実験コラム 「シャリ玉の中の空気を探せ!」

日本を代表するソウルフードである「寿司」。新鮮で風味溢れる海鮮を丁寧に仕込んだネタと、それを引き立てるほのかな酸味を効かせたまばゆいシャリからなる寿司は、厳しい修行と長年の経験により培われた確かな技量に裏打ちされた、すし職人の技術の結晶といえる。

そんな職人技をたたえる言葉は数あれど、「すし職人が握ったシャリ玉は、空気を含み口に入れた瞬間ほどける」という話は聞いたことがある方も多いだろう。箸でつかんでも崩れないほどにはしっかりしつつ、舌で押すと簡単にほどけるというシャリ玉の食感は、おいしい、上等な寿司であるための大切な一要素だ。

海外に住むために、寿司の基本技術を習得できるという学校に行ったりしつつ、今は荷重測定器のメーカーにお世話になっている自分が、このアイディアをひらめいたのは、当然のことだったかもしれない。

「FRTS(IMADAの食感試験機)を使えば、シャリ玉の空気の有無がわかるかも!」


今回実験に使うFRTSには、食品の柔らかさや粘着力、付着性などを数値で表すことができる「テクスチャープロファイル分析」機能がついている。その中に、「もろさ」という食品が崩れ始める時の荷重値であらわされるパラメーターがあり、それにより空気の有無が数字に出るのでは、とふんだ。

空気の有無による測定結果の差は、極めて繊細な違いになることも懸念し、ロードセル(荷重センサー)がその差を十分に感知できるよう、シャリ玉にあたる面積が異なる3種類のプローブを用意。

測定のために用意するシャリ玉は、誰でも簡単に作れる100均の便利グッズでつくるものと、〇年ぶりに握ることになる自分がつくる2種類。

「この実験は、長年の経験を持つ寿司職人の技術のすごさを科学的に証明するのが目的ではなかったっけ?」と思いつつ、すし屋の出前を経費で落とす勇気もないため続行。

買ってきたレトルトのご飯に、ちらしずしを作る素を混ぜ酢飯を準備する。会社に飯台などはもちろんなく、ステンレスボウルで混ぜる。ボウルの底にうっすら残る余分な水分に、プロの使う調理道具の偉大さを再認識した。


測定は、3種類のプローブそれぞれで、100均のグッズで作ったシャリ玉と自分で握ったシャリ玉2つずつをサンプルにし、計4回ずつ実施。各回サンプルのシャリ玉を2回押し、そこで得られたデータからシャリ玉の食感を算出する。シャリ玉に空気が入っていれば、外側から侵入するプローブが空気の層に到達し、ピーク前に一度荷重値が下がるタイミングが、「もろさ」として検出される。

すし学校での2か月の猛特訓の成果を今こそ発揮するとき!と意気込み行った測定結果はこちら。

(平型プローブ)

(円柱プローブ)

(くさびプローブ)

あれ。「もろさ」の値が出ない。もろさのしきい値(50digit、今回の試験機では0.05N相当)が大きすぎたのだろうか。それにクサビプローブの面積入れるの忘れてた。

幸い他のデータは取れていたので、グラフ含め眺めてみる。ピーク前の荷重値の落ち込みは、辛うじて円柱プローブで2つ目の手で握ったシャリ玉を押したときだけグラフ上で見られたが、再現性に欠ける。平型プローブでも傾きがゆっくりになるタイミングはあるので、そこが空気が入った層になるのだろうか。接触面の鋭利なクサビプローブはピーク値までほぼまっすぐ荷重が増していくので今回の検出には向いていない?

グラフの傾きに加え、荷重値でもプローブによって差が出ている。舌の当たり具合を考えると、平型プローブくらいの接触面積と荷重値が発生しているように思える。

そもそも、もろさを検出するためには適切なしきい値を設定する必要があるが、どの程度の値にすればいいかは未知の領域。クロワッサンとかパイとか空気層がある別のサンプルでも測定してみて、しきい値のデータもとったほうがよいだろうか。

実際にすしを食べる時のことを思えば、シャリ玉も下側から押したほうが正確な値になるかもしれない。


とはいえ、自分は営業サイドの人間、これ以上考えてもよい測定方法は出てくる気がしなかった。ここは社内にいる荷重測定一筋何十年の技術者たちの知恵を借りる必要がありそうだ。

そこで上司に実験の結果と今後を報告しにいった。

上司:「空気の層が検出できるようになったら、新しい荷重測定のソリューションにつながると思うんですよ。ぜひ製品開発も見据えて継続してみてください☺」

あ、上司も乗り気、すんなり実験継続がきまった。でもそうなると結果をださなければいけないということですよね?図らずも、製品開発に携わる方々のプレッシャーも経験できることになった。荷重測定の猛者たちと会話できる知識をつけなければ!

飲食業界を経て、今は測定業界で働く身として、荷重測定を通じておいしさに貢献していくのは、きっと天命なのだろう?絶対にシャリ玉の空気を発見しなければならない!まずは社内の技術者たちに相談だ!(続く)

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