前回の記事では、面と面で接触する摩擦試験として、「紙の摩擦試験」の事例を紹介しました。試験方法としては、2枚重ねたサンプルの上にウエイトを置いて滑らせるという単純な方法でしたが、摩擦がうまれるのは、必ずしも面と面での接触、摺動に限った話ではありません。たとえば、身近なところでは、鉛筆で紙に文字を書く際にも摩擦はうまれています。摩擦により鉛筆の芯が削られることで、削られた芯(黒鉛)が紙に付着して文字が書けるという原理です。
摩擦試験紹介記事の第2回となる今回は、面と点(比較的狭い面を含む)の間で起こる摩擦に焦点を当てて、摩擦試験の事例を紹介します。なお、物理学上は、「最大摩擦力=垂直抗力×摩擦係数」であり、接触面積による最大摩擦力への影響はありませんが、実際には接触面積を含めた様々な要因により最大摩擦力は変動します。そのため、測定を行いたいサンプルの使用方法や形状によって、試験方法を決めていくことが大切です。
摩擦試験の事例紹介① アイライナーと人工皮膚の摩擦試験
最初に紹介をするのは、「アイライナーと人工皮膚の摩擦試験」です。皮膚(肌)に対する摩擦試験は、化粧水や乳液の肌への効果測定、クレンジングやマスクの肌への負担測定など、様々な目的から幅広く行われています。実際にヒトの肌を使用して試験を行う場合もありますが、今回は人工皮膚を使用した測定の紹介です。人工皮膚の上にアイライナーでラインを引くことで、アイライナーと人工皮膚の最大摩擦力、摩擦係数を測定します。
測定に使用するのは、下の画像の測定器です。スティックホルダーに固定されたアイライナーが左方向に動くことで、スライドテーブルに固定された人工皮膚との間に摩擦が起こり、その摩擦力をフォースゲージ(荷重測定器)が測定します。実際の使用状況に近づけるため、アイライナーを少し傾けて、人工皮膚に接触させました。
測定の結果は以下のグラフのとおりです。今回の測定では、ペンシルタイプとジェルタイプの2種類のサンプルで測定を行いました。ジェルタイプの方が静摩擦係数、平均動摩擦係数が低く、滑らかにラインが引けることがグラフから分かります。
摩擦試験の紹介事例② タブレット用保護フィルムとスタイラスペンの摩擦試験
続いて紹介をするのは、「保護フィルムとスタイラスペンの摩擦試験」です。タブレット端末など、デジタル機材での資料作製やイラスト作成が主流になりつつあるなか、様々な書き心地を謳った保護フィルムが販売をされています。書き心地において摩擦は大きな要素を担っており、摩擦試験によって摩擦係数を測定することは、書き心地の数値化という点でも大きな役割を果たします。
測定には先ほどと同じ、測定器を使用しました。スタイラスペンによっては筆圧検知といった機能もあり、ウエイトの重さ(垂直抗力)を変えながら、複数の重さで測定を行う必要があります。次のグラフはウエイト重量40g/60g/80gでの測定結果を示していますが、物理学上は同じであるはずの摩擦係数が、一定ではないことが測定結果から分かります。
摩擦試験の事例紹介③ グリースの潤滑性試験(ボールオンプレート法)
最後に紹介をするのは「グリースの潤滑性試験(ボールオンプレート法)」です。ボールオンプレート法とは、プレート上で球体を滑らせて測定を行う試験方法で、潤滑性試験のほか、金属材料やセラミックなどの摩擦摩耗試験にも多く使われています。サンプル同士の接触面積が小さいため、単位面積あたりの圧力が大きくなり、安定した接触を維持することができます。一方で球体側のサンプルの摩耗が進むにつれて、接触面積が広がってしまうことには注意が必要です。
今回の測定では、ステンレス鋼に対するグリースの潤滑効果を測定するために、ステンレス鋼プレートに石油系グリースを塗って、ステンレス鋼球を滑らせた際の摩擦力を測定しました。なお、基準値として、潤滑剤を塗っていない状態での摩擦力も測定をしています。
測定結果を示したのが上のグラフです。静摩擦係数は微増しているものの、グリースの塗布により平均動摩擦係数が減少していることが分かります。また、下のグラフは、鋼球を十往復させた後の摩擦力を示していますが、引き続き平均動摩擦係数は低い数値を保っており、潤滑性が持続していることが分かります。今回は1種類のみの測定ですが、複数のグリースを比較することで、サンプルにより適したグリースを選択することが可能となります。
まとめ
さて、今回は「アイライナーと人工皮膚の摩擦試験」「保護フィルムとスタイラスペンの摩擦試験」「グリースの潤滑性試験(ボールオンプレート法)」を例に挙げ、面と点の接触による摩擦試験を紹介しました。面と点の接触による摩擦試験は、他にも「筆記具の書き心地測定」など、様々な場面で活用をされています。冒頭にも書いたとおり、摩擦力は接触面積や接触角度などの様々な要因に影響を受けます。もちろん、サンプルの形状や試験機による制限はありますが、少しでも実際にサンプルが使用される状態に近い試験条件で測定を行うことが大切です。
次回は「繰り返しの摩擦による変化を見る試験」として、摩耗試験を紹介する予定です。また、フォースチャンネルでは、荷重測定やチカラに関する様々な記事をお届けしています。ぜひ、他の記事もチェックしてみてくださいね。
測定事例動画:筆記具の摩擦係数の測定
測定事例動画:潤滑剤の摩擦係数測定(ボールオンプレート法)
※今回得られた結果は、あくまで記事内で測定を行ったサンプルに関する結果です。サンプルごとに特性に違いが出る場合がありますのでご注意ください。