スイッチのクリック感 測定方法と測定データの見方

今回は、タクトスイッチなど押しボタン式スイッチの特性評価について、特にクリック感に焦点を当てながら深堀していきます。

目次

クリック感とは?

クリック感とは、例えばPCのマウスやキーボードを押し込んだ際に、「カチッ」としてスイッチが作動したことがわかるという感覚の事ですスイッチを押した手ごたえと言う事ですね。もう少し専門的に言うと、ばねの弾性が負けて接点が入る瞬間のことを指します。

クリック感の役割は?どのような場面であると良い?

多くの人々はタブレットやスマートフォンなどのタッチパネルデバイスを所有していますが、大量のテキスト入力が必要な場合、従来のキーボードを好む傾向があります。その理由の一つとして、従来のキーボードには「クリック感」があるという事が挙げられます。

conventional keyboard with click sensation

タッチパネル式キーボードは平らな表面を持つため、キーを押した感触やクリック感がありません。このため、キーが正確に反応したかどうかを判断しにくく、誤って隣のキーをタッチしてしまう可能性が高まります。この不便さを補うためにはキーボードを見ながら入力する必要があり、使い勝手が低下します。

タッチパネルの画面上に表示されたスイッチを押すと、スイッチが押し込まれたように見せるために色が変わったり、音を鳴らすなどの工夫を施しているのをよく見かけます。これはタッチパネルにクリック感が無いことを補っているという事であり、裏を返せば、クリック感の必要性を体現していると言えます。

色の変化や音によってタッチパネルの「クリック感が無い」というデメリットをある程度は補えるかもしれませんが、それでもクリック感のある従来型のキーボードやスイッチには、タッチパネル式のキーボードやスイッチではカバーしきれないメリットがあります。

クリック感の重要性が際立つ場面

  1. ユーザーが手袋を着用している場合。たとえば、製造業や医療分野などで手袋を着用する状況では、従来のキーボードやスイッチの方がより信頼性があります。そもそもタッチパネルではしばしば手袋を着用した指に反応しないことさえあります。クリック感があれば、手袋を着用したままでも確実にキーを押したことを感じることができます。
  2. 誤ってスイッチを押してしまうことを避けたい場合。タッチパネル式のスイッチは、意図しない接触があった場合にも反応し、画面を見ていない限りそれに気付きにくいことがあります。スイッチを押したことを知らせるのに音や色の変化に頼る場合、周囲の騒音や明るさによっては効果が薄れることがあります。また、水分や油分、ほこりなどの汚れに反応して誤作動を起こすこともあります。従来のキーボードは、クリック感を通じて誤った操作を認知しやすく、誤作動を減少させます。

したがって、クリック感は操作を正確かつ確実に進行させる重要な要素です。ただし、クリック感はあれば良いといいものではなく、クリック感とそれを感じるまでの押し心地がその状況に応じて最適であるのが理想です(緊急停止スイッチでしたら、簡単に押しこめない&バチンというような強いクリック感がある方が良いかもしれませんし、キーボードのスイッチでしたらストレスなく押せるような比較的軽い押し心地でクリック感も強すぎない方が良いはずです。)

押し心地が理想よりも硬すぎたり、柔らかすぎたり、クリック感が過剰または不足しているスイッチは、製品の品質を低下させる原因となり得ます。実際に高級車などの高級製品では、搭載されるスイッチの感触(押し心地)とクリック感がブランドのイメージ向上に寄与するため、慎重に測定および管理されています。

Switch in car

クリック感と共にスイッチを押す感触を評価し、スイッチの特性を分析および管理することが、ユーザーフレンドリーで高品質な製品を製造するために重要です。

スイッチのクリック感と押し心地の測定方法

では、そのクリック感や押し心地はどうやって測定することができるのでしょうか?
フォースゲージという「力」を数値化する測定器を使用します。なぜ「力」の測定器なのでしょうか?押し心地というのは、言い換えればスイッチの「反発力」だからです。反発力が高くなるにつれて、押し込みづらく硬いものになっていきますし、逆に反発力が低ければ弱い力でも押し込めるものになります。そして、クリック感とは「ばねの弾性が負けてその反発力が落ち込む瞬間」と言えます。ですので、押し心地もクリック感もその力を測定することで、特性が見えてきます。
実際には下記のようにフォースゲージでスイッチなどを押し込んでその反発力を数値化していくのですが、

その際に、ただ押し込むのではなく、押し込む変位量(距離)を予め決めておき、その変位量だけ押し込みます。その力と変位の関係をグラフ化することでスイッチの特性が確認できます。
使用する機器や実際の測定の様子は下記の動画をご参照ください。

また、下記のようにON/OFF点の検出測定をすることで、スイッチを押した感覚がある場所と実際にスイッチがONになっている瞬間にズレは無いか、スイッチを押した感覚があった際に実際にスイッチがONになっているかを確認することもできます。

データの読み方

下記は実際に3種類のスイッチの押し込み力と変位をグラフ化した結果です。縦軸が力、横軸が変位です。

グラフ上の黒い曲線(スイッチ①)を例に取って読み方を説明します:

  1. クリック感がグラフ上で可視化されています。青丸部分で図示されていますように、力の値が急激に下がっている瞬間のところです。この力が急降下する部分は「バンプ」と呼ばれたりします。
  2. クリック感に到達するまでの荷重値は8.77N、距離は1.576mmです。
  3. 戻る方のクリック感も確認できます。
  4. 横軸は時間ではなく変位を基準としているため、曲線が左方向に戻り、ヒステリシス(ゼロもどり性)が可視化されます。スイッチの特性で言うと、感触として戻りが強いと指を押し上げてくれる感触につながります。

上記グラフからはクリック感の特性はわかりますが、その善し悪しの判断は定性データなどと照らし合わせて評価していくことになります。

● グラフからは、黒い曲線ではクリック感があるところまで押し込む力は8.77Nとわかりますが、このスイッチに対して、例えば「硬い」「押しにくい」という否定的な定性評価が多いとしたら、グラフで言うともっと下の方でクリック感が来るようにしなければいけないという事です。「硬い」「押しにくい」という事は、スイッチの反発力が想定より大きいためそう感じる可能性が高いからです。つまり、クリック感に到達するまでの最大荷重値を8.77Nよりももっと抑える必要があるという事になります。

● 黒い曲線では、クリック感があるところまで、1.576mm押し込んでいるとわかりますが、もしもこのスイッチに対して、「反応が悪い」というような否定的な定性的評価が多いのだとしたら、グラフで言うともっと左の段階でクリック感が来るようにしなければいけないかもしれません。「反応が悪い」という事は、クリックまでに押し込む量が想定より長いためそう感じるかもしれないからです。つまりクリック感までの距離を縮める必要があるかもしれないという事です。

グラフ上の曲線形状やクリック感を示すバンプの落ち込みはスイッチによって変わってきますが、結局のところ良い押し心地やクリック感とは定義により異なってくるので、「これが良い曲線・バンプだ」とは一概に言えません。

実際に測定する際のポイント

実際に測定する場合は、サンプリング速度が速いフォースゲージとグラフ描画ソフトウェアを使用することが推奨されます。
サンプリング速度とは、測定値を取得する速度です。サンプリング速度が2000Hzでしたら、1秒に2000の測定値を取得できるということです。50Hzでしたら1秒に50の測定値となります。
先述の通り、クリック感とは一瞬の荷重値の落ち込み(バンプ)の事を指します。サンプリング速度が遅いとその一瞬を逃してしまうのです。クリック感の測定には測定値のグラフ化が欠かせませんので、いくらフォースゲージのサンプリング速度が速くても、ソフトウェアでグラフ化するサンプリング速度が遅いと意味がありません。メーカーや製品の組み合わせによっては、フォースゲージのサンプリング速度は1000Hzだけれど、グラフ化する速度は50Hzというようなこともあるので、製品の選定には要注意です。どちらのサンプリング速度も速いのが理想です。

クリック感の測定器例

こちらのリンク先をご参照ください;スイッチフィーリング試験機>

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