塗膜引張試験による付着力の評価|クロスカット試験とプルオフ法

付着力は、塗膜や塗装(以下、塗膜)の最も重要な品質のひとつです。塗膜には、表面保護やデザイン、機能付与など、さまざまな目的があります。これらの目的を達成するためには、塗膜がしっかりと基材に付着していることが不可欠です。本記事では、塗膜の付着力を評価するための試験方法である「クロスカット試験」「プルオフ法(塗膜引張試験)」について解説します。

目次

付着力評価の目的と方法

塗膜の付着力とは、塗装された塗膜の力学的な剥がれにくさを示す指標です。付着力が弱い塗膜では、外力や経年劣化による剥がれなど、塗装に関する不具合が発生するリスクが高まります。塗膜の付着力は、単純な塗料の性能だけでなく、基材や下塗塗膜との相性、表面状態などにも影響を受けます。そのため、実際の塗装条件で付着力が要求品質を満たしているかを試験することが求められます。

付着力の評価は、粘着テープや接着剤を使用して、塗膜を引き剥がすことで行います。付着力試験には、定性的に評価する「クロスカット試験」と、定量的に評価する「プルオフ法(塗膜引張試験)」があります。クロスカット試験とプルオフ法は、測定結果に求められる厳密性や即時性、簡易さなどにより、使い分けられています。

クロスカット試験プルオフ法(塗膜引張試験)
クロスカット試験の試験イメージプルオフ法(塗膜引張試験)の試験イメージ
簡易/手軽/安価な評価方法厳密/定量的な評価方法

クロスカット試験による付着力評価(JIS K5600-5-6: 1999)

クロスカット試験(碁盤目試験とも呼ばれる)は、塗料業界では古くから使われている、付着性の評価方法です。日本産業規格では、JIS K 5600-5-6: 1999が「塗料の一般的試験方法 第5部:塗膜の機械的性質―第6節:付着性(クロスカット法)」として試験方法を規定しています。

[クロスカット試験の手順]

手順1:塗膜に格子状の切込みを入れます(基材に到達するまで切込みを入れます)手順2:切込み全体に粘着テープを貼り付けて、しっかり密着するように指でこすります手順3:一気に粘着テープを引き剥がし、剥離後の塗膜の状態を確認します
クロスカット試験手順1:塗膜に格子状の切込みを入れるクロスカット試験手順2:切込みを入れた塗板に粘着テープを貼り付けるクロスカット試験手順3:テープを引き剥がす

試験方法は非常に簡単で、①塗膜に格子状の切込みを入れる ②粘着テープを貼り付ける ③粘着テープを一気に剥がす、という3ステップで行われます。テープ剥離後の塗膜状態の評価基準については、たとえばJIS K 5600-5-6-: 1999では、剥がれ具合によって6段階に分類しています。(詳しくは規格資料をご参照ください。参考までに、剥がれがない=分類0で、剥がれた面積が大きくなるほど分類の番号が大きくなります。)

[クロスカット試験のメリット:手軽さ・安価]

クロスカット試験は、「手軽に短時間で実施できる」、「安価に必要な道具が揃えられる」などの理由から、塗装の現場では広く一般的に採用をされています。試験板を切り出さずとも試験が可能であり、緩やかな局面などでも試験可能と、非常に使い勝手のよい試験方法です。*1 しかし、一方で試験結果の厳密さについては曖昧さが残る試験方法であることには注意が必要です。

[クロスカット試験のデメリット:結果の曖昧さ]

クロスカット試験では、下記の理由により、その試験結果に曖昧さが残ります。

  • 粘着テープの貼付力や剥離角度、剥離速度など、試験ごとに条件の違いが生じる
  • 評価が6段階のみであり(JIS K 5600-5-6-: 1999)、細かな評価ができない
  • 粘着テープよりも強い付着力を塗膜が持つ場合、すべて最上位の分類となる

事実として、JIS K5600-5-6:1999では、クロスカット試験は付着性を厳密に数値評価する手法ではない点が示されています。

クロスカット試験のまとめ
・塗膜に格子状の切込みを入れ、粘着テープで剥離した後に塗膜状態を評価。
・試験の手軽さから、塗装現場などで、簡易的な試験方法として幅広く使用されている。
・試験結果の厳密さには曖昧さが残る(試験条件の再現性の低さなど)
・JIS K5600-5-6:1999では、付着性を数値評価する手法でないことが示されている。

*1 JIS K5600-5-6: 1999では平板の試験片を準備するように規定されています。詳しくは規格資料をご参照ください。

プルオフ法による付着力評価(JIS K5600-5-7: 2014)

プルオフ法(塗膜引張試験とも呼ばれる)は、塗膜の付着力を定量的に評価することができる試験方法です。日本産業規格では、JIS K 5600-5-7: 2014が「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第7節:付着性(プルオフ法)」として試験方法を規定しています。

[プルオフ法の手順]

手順1:接着剤を用いて、プルオフ法用試験円筒(ドリー)を平板な塗板に貼り付けます手順2:接着剤が硬化した後、試験円筒の円周に沿って塗膜に切り込みを入れます手順3:試験円筒を垂直に引っ張り上げて、塗膜が破壊された際の破壊強さを記録します
プルオフ法手順1:接着剤による試験円筒と塗板の接着プルオフ法手順2:試験円筒に沿った塗膜への切り込みプルオフ法手順3:試験円筒を引っ張り上げて塗膜を破壊
プルオフ法(塗膜引張試験)の全体イメージと引き剥がし後の塗板
△プルオフ法(塗膜引張試験)の全体イメージ

付着力の測定は、フォースゲージなどの、チカラの測定器を使用して行います。たとえば、上画像の試験ユニットでは、フォースゲージ(111.3Nと画面表示されている測定器)が電動計測スタンドによって上昇することで、試験円筒を引っ張り、塗膜の付着力を測定しています。

>>具体的な試験ユニットを知りたい、測定動画を見たい場合はこちら

測定は複数回行い、各測定結果(各試験の破壊力=ピーク値)の平均値を計算するのが一般的です。たとえばJIS K5600-5-7: 2014では、同じサンプルで6回以上の試験を行うことを推奨しています。なお、測定結果は、破壊力「N(ニュートン)」もしくは破壊強さ「MPa」で記録をします。破壊強さ(MPa)は、破壊力(N)を接着面積(mm2)で除することで計算可能です。*1

[プルオフ法のメリット:付着力を数値化できる・付着力が高い塗膜も評価可能]

プルオフ法の最大の利点は、付着力を数値化して評価できる点にあります。付着力が数値化されることにより、主観的な定性的な評価ではなく、客観的な数字による付着力の評価が可能です。
また、プルオフ法は、クロスカット試験よりも強い引張力で、塗膜を引き剥がすことができます。*2 そのため、粘着テープでは剥がせないほど付着力が高い塗膜でも、塗膜を引き剥がし、付着力を数値化することが可能です。つまり、プルオフ法は、「粘着テープよりも強い付着力を塗膜が持つ場合、すべて最上位の分類となる*3」というクロスカット試験の欠点を克服できるということです。

[プルオフ法のデメリット:手間がかかる・試験機が必要]

試験方法は、クロスカット試験と比べると手間がかかり、電動の駆動機構を持つ試験機などが必要です。また、平面ではない塗膜に対しては、試験を行うことができません。

プルオフ法のまとめ
・塗膜にプルオフ法用試験円筒を接着して、引張破壊力、破壊強さを測定する。
・試験には電動駆動を持つ計測スタンドやフォースゲージが必要。
・塗膜の付着力を定量的に評価できる。クロスカット試験では剥がせない塗膜も評価可能。
・試験を行うには、平板の試験片が必要。

*1 N(ニュートン)とは、国際単位系(SI)に定められた力の単位であり、引張力の単位にはNが使用されます。
*2 評価できる付着力は、接着剤の引張強度や試験機の容量によって制限があります。
*3 JIS K 5600-5-6-: 1999における分類0(はがれない)など。

クロスカット試験とプルオフ法の比較

試験方法クロスカット試験プルオフ法(塗膜引張試験
特徴簡易/手軽/安価厳密/定量的
試験イメージクロスカット試験の試験イメージプルオフ法(塗膜引張試験)の試験イメージ
必要な道具カッターナイフ、定規(または専用ガイド)、テープ試験機(フォースゲージ、電動計測スタンドなど)、接着剤
評価方法クロスカット試験の試験後塗板
テープ剥離後の塗膜を観察
プルオフ法の測定結果(フォースゲージ測定値)
破壊時の引張力で比較
評価可能な付着力範囲粘着テープの粘着力まで粘着テープの粘着力以上も測定可能(接着剤の引張強度まで)
対応可能な試験サンプル試験片として切り出さなくても試験可能、緩やかな曲面であれば試験可能*1平板の試験片が必要
対応規格(日本産業規格)JIS K5600-5-6: 1999JIS K5600-5-7: 2014
*1 JIS K5600-5-6: 1999では平板の試験片を準備するように規定されています。詳しくは規格資料をご参照ください。

補足:付着力試験と耐久試験の組み合わせ
付着力の評価試験は、塩水噴霧試験などの試験と組み合わせて実施されることもあります。塩水噴霧試験とは、塩水が噴霧された試験機内に塗板を放置し、一定時間経過後の塗膜の状態を観察する試験です。塗膜の耐久性の評価を目的としており、主に錆や膨れ、腐食などの観察が行われます。塩水噴霧試験時には、事前に塗膜に切込みを入れておき、切込み付近の塗膜を粘着テープで剥離して評価するのが一般的です。ただし、場合によっては、塩水噴霧試験後の塗膜に対して「クロスカット試験」や「プルオフ法」の試験が行われています。

まとめ

塗膜の付着力試験には、定性的に評価を行う「クロスカット試験」と定量的に評価を行う「プルオフ法(塗膜引張試験)」があります。2つの試験は、測定結果の評価の厳密さが異なるため、目的に応じた使い分けが重要です。

クロスカット試験は、短時間で手軽に実施できるものの、測定の再現性や精密さには制限があります。一方でプルオフ法は、定量的に付着力を評価できるものの、試験機器が求められる、塗板の切り出しが必要などの制限があります。塗膜の付着力を正確に評価するためには、各試験方法をしっかりと理解し、目的に応じた試験方法を選択していくことが不可欠です。

【参考情報】

イマダの製品・サービスサイトでは、JIS K5600-5-7:2014に一部準拠したプルオフ法の測定事例動画を公開しています。また、測定方法や測定機器に関してご相談をご希望の場合には、イマダにて技術相談も受け付けております。塗膜の付着力試験について、より詳しく知りたいという方は、ぜひイマダの製品・サービスサイトもご覧ください。

>>プルオフ法(塗膜引張試験)の測定事例動画を見る(株式会社イマダ 製品・サービスサイト)

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