【実験室レポート】お家時間を楽しく美味しく!
ふわふわ・ツノ立つ生クリームのヒミツ

目次

美味しいお家時間を過ごしていますか?

 コロナ禍が始まってはや一年以上。増えてきたお家時間をみなさん楽しく工夫している様ですね。DIY、インテリア、アウトドアなどに人気が高まる中で、家族全員がハッピーになる料理も注目の的です。レシピは沢山ありますが、皆さんが「感覚でしかわからない!」と感じているヒミツが数多くありませんか? こうした感覚を科学的に解明して、楽しいお家時間をより美味しくするコツをお届けしてみたいと思います。

ケーキ大好き!

 本格的に厨房に入る方もいる一方、家族みんなで取り組めて、焼き上がりを待ったりトッピングしたりするのが楽しいケーキ作りに挑戦する方も多いと思います。普段の日でもおいしいケーキがあると家族のだんらんが弾み、毎日の疲れも吹っ飛んでしまいますよね。季節毎に土地柄毎に名産のフルーツや色とりどりのトッピングで、自然と幸せの輪が広がるのではないでしょうか。という事で、実験室レポートで取り上げるテーマの第一号は、文句なしにケーキに決めました。

美味しいケーキのヒミツ

 イマダが注目したのが“生クリーム”です。ショートケーキやチーズケーキだけでなくシフォンケーキ、パウンドケーキなど生クリームを使ったケーキは数多くありますよね。お子様と一緒に作るケーキでも先ずはイチゴをふんだんに乗せたショートケーキを、というご家庭も多いのではないでしょうか。生クリームはケーキに留まらず、パスタやパンなど用途も様々。そこで先ずは美味しいケーキの大切な要素である“生クリーム”のヒミツを解明します。

簡単そうで難しい生クリーム

 レシピも数多く存在し、皆さんも美味しい生クリームの作り方をそれぞれお持ちと思います。幅広く利用される生クリームですが、社内調査では“意外と難しい”との声が上がっています。その理由が「ふわっとした」「ツノが尖った」などの “感覚的”な尺度が多用されるため、レシピに忠実に作っても、この“ふわっと”や“ツノ”という感覚がずれると、「あれ?」という結果になってしまうためです。そこでこの“生クリーム”で皆さんが求めている「ツノが尖った」感覚を科学的に解明することで、おいしい“生クリーム”をより易しく作れるようにしてみたいと思います。

いよいよ実験へ!

 さあ荷重測定のイマダの本領発揮です。まず準備した材料は以下の通りです。

実験準備

材料

•生クリーム 200ml
•グラニュー糖20g
•氷水 適量

準備

・生クリームは良く冷えていないと分離しやすいので、直前まで冷蔵庫でしっかりと冷やし ておき、氷水を入れて冷やしておいたボウルにグラニュー糖を加えて、自動泡だて器でかき混ぜました。

次に測定に用いた機器類をご紹介します。

測定機器

イマダのレオメーターFRTS-5N

 測定に用いた機器は、食品の硬さ、粘り気、まとまりやすさ、べたつき、弾力などの食感を数値化できるイマダのレオメーター(食感分析分析器器)であるFRTS-5N。卓上タイプで場所要らずです。

 イマダのレオメーターは以下の食品の荷重測定に標準対応しており、その他の食品の測定へも対応していますので、ご興味がある方は是非レオメーターに関する案内や、イマダのホームページをご覧ください。

【リンク】イマダのレオメーターFRTS-5Nのご案内

 イマダのレオメーターFRTSの標準測定対象食品例食品分類一覧 (一部抜粋になります。似た形状や食品を選択してください)

6)いざ、測定!! とその前に実験計画

 材料も測定機器も揃ったら、美味しい生クリームの発見の旅へ出発! と言いたいところですが、ケーキの世界はそんな甘くはありません(よね)。かき混ぜる前に氷水で冷やす時間? 氷水で冷やした後にかき混ぜる前の温度? かき混ぜる時間? かき混ぜた後に寝かせるべきか? などちょっと考えただけでもいろいろなコツが美味しい生クリームの作り方に影響することが考えられます。そこで食べたい気持ちはぐっと我慢して、皆さんにタメになりそうな作り方のツボをいろいろと測ってみることにしました。言うなれば、“実験計画”です。

 今回はかき混ぜ時間と生クリームのツノの関係を解明するための実験結果をご紹介します。他の実験も今後どんどん進めて紹介してゆきますので楽しみしていてくださいね。目指せ、みんな誰もがケーキの達人!

かき混ぜ時間と生クリームのツノのビミョーな関係

 生クリームのかき混ぜ程度は七分立て、八分立て、などが良く知られ、それぞれお菓子や料理に利用されています。今回は六分立てから九分立てまで計5種類の生クリームを押し込むチカラと引き上げるチカラをそれぞれ測定して、どのような物質特性があるのかどうかを調べてみました。泡立ての目安は下記の外部リンクを参考にしています。

【参照】クラシル
https://www.kurashiru.com/recipes/3d184179-e045-4b82-adec-5ef2d7902ac8

【参照】マジックキッチン
https://magicalkitchen.com/tips-sw/tips-whippedcream/

・<六分立て>生クリームがトロトロと流れ落ちる状態 
・<七分立て>泡だて器ですくうと落ちた跡が少しの間残って線が描ける状態
・<八分立て>泡立て器ですくうとクリームがすぐに落ちず、ぽってりと落ち、ツノがたつ状態 
・<九分立て>ピンとツノがたって垂れない状態

【参照】
マジカルキッチン、生クリームについて、泡立て方について

はてさて、結果やいかに?

 結論を一言で言えば「過ぎたるは及ばざるがごとし」。かき混ぜる時間経過とともに徐々にふんわり度合いが増してゆくと考えていたのですが、見事にその仮説は棄却されました。一定時間まではふんわり度合いと固まり具合が増してゆくのですが、ある時点を超えると一気に固まって、重くどっしりした生クリームになります。生クリームのツノ関しては、徐々にツノが形成されるように固まるのですが、ある時間を超えると荷重(重力)が大きくなりすぎてツノが形成される途中に重みで潰れてしまい、結果的にツノが見られない事がわかりました。冷却時間や温度など他の条件も影響しますが、ことかき混ぜ時間となると「過ぎたるは及ばざるがごとし」で、一定時間以上かき混ぜると生クリームのツノは地球の重力に負けて生えてきません。しっかり見ていると美味しいツノが現れ、うっかり見過ごすとツノを隠す。何とも奥深い生クリームの世界です。

イマダ社内での実験の様子

ちょっとだけ科学的に説明します

 結論をちょっとだけ科学的に説明してみましょう。難しそうだと思ったら読み飛ばしてくださいね。

実験方法

 六分立てから九分立て泡立てた計4サンプルをボウルで準備し、実験用カップ計に移し替えた後、レオメーター先端の治具が生クリームの液面に接触する所までゆっくりとカップを上昇させます。液面に達したら、5mm/minの速度でカップ底面より25mmの深さまで治具を押し下げ、今度は10mm/minの速度で治具が液面から完全に浮き出るまで引き上げる。液面から押し下げるチカラと、引き上げるチカラの測定により、生クリームの固さの加減とツノの形成の関係を分析。イマダの荷重測定器は、一連の測定が事前設定により自動化が可能で、個人差やブレが生じません。誰が測定しても同じ結果が得られるので、ケーキ屋さん、お菓子屋さん、レストラン、ホテルから食品メーカーに至るまで多くのお客様に自動測定機能は重宝されています。

実験の模様

• 六分立て(実験1)
• 七分立て(実験2)
• 八分立て(実験3)
• 九分立て(実験4)

の実験の模様は以下の写真を参照。

六分立て(実験1)

かき混ぜ時間4分。生クリームがトロトロと流れ落ちる状態

六分立て(実験1)

【参照】六分立て動画は以下をクリック

六分立て(実験1)動画

七分立て(実験2)

かき混ぜ時間5分。泡だて器ですくうと落ちた跡が少しの間残って線が描ける状態

七分立て(実験2)

【参照】七分立て動画は以下をクリック

七分立て(実験2)動画

八分立て(実験3)

かき混ぜ時間6分。泡立て器ですくうとクリームがすぐに落ちず、ぽってりと落ち、ツノがたつ状態

八分立て(実験3)

【参照】八分立て動画は以下をクリック

八分立て(実験3)動画

九分立て(実験4)

かき混ぜ時間7分。ピンとツノがたって垂れない状態

【参照】九分立て動画は以下をクリック

九分立て(実験4)動画

実験結果

六分立て(青線 一)
七分立て(緑線 一)
八分立て(赤線 一)
• 九分立て(黒線 一)

押し下げるチカラ(下図横軸0.0秒~6.5秒まで)と引き上げるチカラ(横軸6.5秒~13.0秒まで)の推移が以下のグラフ

押し下げるチカラ(0.0秒~6.5秒)
荷重測定器が液面からカップの底面に達するまでの経過

• 六分立てでは2.0秒から徐々に押すチカラが低くなり、八分立てまでそれぞれ一定時間経過後(約3秒)に低くなるが、九分立てでは6.5秒まで押すチカラが上がり続けた。

• これは八分立てまではかき混ぜ器がすっと入るが、九分立てになるすっと入らない(チカラを入れ続けなければならない)事を表している 

引き上げるチカラ(6.5秒~13.0秒) 荷重測定器がカップの底面から液面上に達するまでの経過

• 引き上げる時には先ず液面まで一定のチカラが必要だが、更に液面上に引き上げる時には生クリームがこぼれてゆくので弱いチカラで引き上げる事ができる。この液面から液面上に引き上がる際にこぼれる生クリームが作り上げる魔法がツノである。八分立てでは9.0秒頃から約0.1ニュートンのチカラが徐々にゼロになってゆくので、測定機器にまとわりついた生クリームが徐々にカップに落ちてツノが形成されてゆく事が実験結果からも読み取れる。

• 一方九分立てでは9.0秒からグラフの傾斜角度がきつく、0.2ニュートンのチカラが一気にゼロに戻っている。これはとろみが強すぎて、ツノが十分形成される前に生クリームがポタリと落ちてしまう事を裏付けている

• 言い換えれば、八分立てでは生クリームが重力と釣り合って美味しいツノがうまく形成されるが、九分立てまで固くなるとツノが出来る前に雪崩の様に一気に崩れ落ちてしまうのである。フワフワの生クリームの秘訣は「過ぎたるは及ばざるがごとし」にあるようだ

• 押し下げと引き上げに必要なチカラと、ゼロに戻るまでの時間を比較すると、最適な生クリームのツノが立つために必要な混ぜる時間が判明する。今回の実験では八分立てが科学的にツノが形成しやすい状態が作り出すことが確認できたと共に、混ぜる時間を少しでも長くすると元の木阿弥で、ツノが形成されるまえにツノが崩れ落ちてしまうことも確認できた

次号のちょっとだけ予告

 いかがでしたか皆さん? 改めて時間の大切さと、可逆的には作用しないことがお分かりいただけたと思います。「実験室レポート」では今後も様々な実験に取り組んでゆきますが、もちろん生クリームのツノ探求もまたいつかご紹介してゆきますので、次号以降も是非お楽しみに! また、読者の皆さんからも「美味しさのこのヒミツ、あのヒミツ!」を募集しますので、イマダで解明してほしい「料理の感覚」をぜひお寄せください。イマダのスタッフで美味しく楽しく実験を行い、皆様に結果やヒントを今後どんどん紹介してゆきます!  今月の迷言(?)“重力と友達になるとケーキがおいしくなる”

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