荷重測定器の校正基礎知識「校正における不確かさとは」

近年、ISO/IEC17025校正の需要が高まりつつあります。ISO/IEC17025校正の特徴のひとつが「不確かさ」という指標を採用している点です。測定結果のあいまいさを表す指標として普及をしてきた「不確かさ」ですが、まだまだ耳慣れない方も多いのではないでしょうか。そこで今回の記事では、「不確かさ」について紹介をします。

目次

校正における不確かさとは

校正における不確かさとは、繰り返し同じ手順で校正を行った際の、校正結果(指示値の読み取り結果)のバラツキを数値化した指標です。

荷重測定器の校正では、測定器に基準となるチカラを加えて指示値を読み取ります。校正は細心の注意をもっておこなわれますが、たとえ同じ手順で校正したとしても、その読み取り結果は、さまざまな要因によりバラツキを持ちます

たとえば、校正環境(気温、湿度など)は、校正結果にバラツキが生まれる要因のひとつです。例として、校正時に、小数点以下が表示されず、1℃単位で温度表示をする温度計を使用して、校正環境を23℃に設定しているとします。1℃単位で表示される温度計は、小数点以下が四捨五入された温度を表示します。そのため、より細かく見ると、同じ23℃表示でも、22.523.5℃の範囲内でバラツキがあり、毎回の校正条件が完全には同一ではない可能性があることがわかります。

温度の違いは、微少ではありますが、測定器の状態に影響を与えます。そのため、設定上は同じ校正環境下(室温23℃)でも、実際には温度のバラツキがあり、結果として校正結果にもバラツキが生まれる可能性があります*1。23.0℃まで表示される温度計を使用すれば、バラツキの程度を下げることはできますが、やはり実際の室温は22.95~23.05℃になるため、完全にバラツキを取り除くことはできません

▲ 室温23℃設定時の校正結果のバラツキのイメージ *1

*1 現実には、±0,5℃の温度の違いによる測定器への影響は非常に小さく、温度単体では校正結果(読み取り値)に影響を与える可能性は非常に小さいです。その他の様々な要因のバラツキと積み重なることで、校正結果にバラツキを生み出します。

上記のように、たとえば23℃の環境下での校正結果が得られたとしても、「厳密に23℃丁度」における校正の結果であるかには疑いが生じます。その疑わしさ(=あいまいさ)を定量化した指標が不確かさです。不確かさという言葉が使われていますが、疑わしさが数値化されることで、不確かさが小さい=校正結果の信頼性が高いと読み解くことが可能です。

なお、不確かさの要因は校正環境のみにとどまりません。たとえば、「アナログ機における指針読み取りのあいまいさ」なども校正結果の不確かさの要因です。ISO/IEC17025校正証明書に記載される不確かさは、多岐に渡る不確かさの成分を合成して計算されます。*2

*2 ISO/IEC17025校正証明書では、多様な要因による不確かさをまとめたうえで、「校正の結果は”校正結果〇〇N±〇〇%の間に△△%の包含確率で存在する (相対拡張不確かさ)”」というカタチで不確かさが表記されます。詳しくは「計測における不確かさの表現のガイド(日本規格協会発行)」などをご参照ください。(現実にはバラツキや偏りのない、完璧な測定を実現することは不可能なため、真の値を得ることはできず、信頼できる区間を設けた推定値としてしか知ることができません。)

不確かさが用いられる理由

「不確かさ」という表現は、国際度量衡委員会(CIPM)の働きかけにより、国際標準化機構(ISO)から1993年に発行されたGUM(Guide to the expression of Uncertainty in Measurement)により、はじめて定義がされました。定義の検討作業には、ISOに加えて、国際度量衡局(BIPM)など、7つの国際機関が携わっています。

「不確かさ」の目的は、測定結果の信頼性を評価できるようにすること、また評価方法・表現方法について国際的な合意をもたせることです。

GUMの発行以前にも、測定結果の信頼性を評価する手法はありました。しかし、その評価手法は国や地域間で合意が得られたものではありませんでした。現在では、不確かさの登場により、評価手法を確認することなく、測定結果の信頼性を評価することが可能です

▲ 校正、測定の不確かさとトレーサビリティ(イメージ)。国家計量標準から離れるほど不確かさが増大。

トレーサビリティと密接な関係があるのも不確かさの特徴です。国際計量基本用語集では、トレーサビリティを校正する要素として不確かさに言及しています。

校正の不確かさの要因のひとつに「標準器の校正の不確かさがあります。たとえば、校正に使用する参照標準分銅も、その公称値に対して校正がおこなわれています。先に述べたとおり、あいまいさがまったく無い完璧な校正は現実的ではありません。つまり、参照標準分銅の校正結果にも必ず不確かさが存在します*3。校正の不確かさを計算する際には、標準器の校正の不確かさを考慮にいれる必要があるというわけです。

標準器の校正の不確かさには、親標準器の校正の不確かさが含まれています。そのため、校正の不確かさを計算するためには、標準器の校正の連鎖を遡り、最終的には国家計量標準にまで辿り着かなければなりません。これは、校正の不確かさを表記できる=国家計量標準まで校正の連鎖に切れ目がない(トレーサブル)と言い換えることが可能です。

*3 標準器の校正時の許容範囲(たとえば、校正結果50N±0.1%までは合格として、50Nの公称値を与えるなど)も、標準器の校正の不確かさとして計算されます。

不確かさが小さいことによるメリット

改めて、校正の不確かさは、校正結果のバラツキ、疑わしさ、あいまいさを数値化した指標です。校正の不確かさの小ささは、下記のようなメリットをもたらします。

  • 測定器を使って実測定をおこなった際の、測定の不確かさ低減に貢献。(測定器の校正の不確かさは、測定の不確かさに引き継がれます。ただし、実際の測定時には、新たに様々な要素が不確かさを生み出します。)
  • 定期校正ごとの結果のズレを低減。校正結果の再現性が高いため、結果に異変があった場合に確実に異変を認識することができます。また、指示値の調整時にも、標準器の数値に高い信頼性をもって近づけることができます。

現状では、品質管理などの測定結果に対して、不確かさの提示を求められる場面は多くはないようです。しかし、ISO/IEC17025校正の需要の高まりに伴い、今後測定結果の不確かさの管理を求められるケースは十分に考えられます。校正依頼先に選択肢があるのであれば、現在の段階から、不確かさの小さい校正を選択しておくのもひとつの手かもしれません。

なお「校正の不確かさが小さい」ことは校正結果の再現性を示す指標であり、それによって「校正された測定器の品質が高い*4」こととは直接結びつかないという点に注意が必要です。たとえば、校正の結果、読み取り結果と標準器の数値に大きな差異があるケースでは、校正の不確かさが低くとも、測定器としては適切ではないものになってしまいます。(例:校正不確かさが小さい方法で、50Nの参照標準分銅を用いて校正をおこなった結果、56Nの校正結果となった場合など。)

校正の不確かさに関わらず、標準器の数値と比較して校正結果の差異が大きい場合は、測定器の調整をおこない、校正結果を標準器の数値に近づけることが大切です。

*4 ここでは、標準器の数値(標準器の公称値、標準器による測定結果)に近い測定結果が得られることを指しています。

おわりに

今回の記事では、校正における不確かさについて紹介しました。測定の世界では、「不確かさ」や「トレーサビリティ」という考えが、日に日に存在感を強めています。ISO/IEC 17025校正への需要の高まりも含めて、測定結果に対する信頼性評価の必要性を感じている企業が増えてきているのかもしれません。

イマダでも、自社製品に対してISO/IEC17025校正を提供するとともに、校正の不確かさ低減に取り組んでいます。一般校正とISO/IEC17025校正の違いについては、別記事でも紹介しておりますため、興味のあるかたはぜひご一読ください。>> 一般校正、メーカー校正とISO/IEC 17025校正の違いについて

なお、校正や精度調整、修理に関するご相談は、製品・サービスサイトより随時受け付けております。ぜひお気軽にご相談ください。

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